大幅利下げ観測台頭もBTCは軟調 今年最も重要なFOMC迫る:9月のBTC相場
急落から反発も戻りは鈍い
8月のビットコイン(BTC)ドルは64,625ドルから取引を開始した。2日、7月の米雇用統計で民間部門雇用者数が市場予想の+17.5万人を大きく下回る+11.4万人となったことや、失業率が4.1%から4.3%に上昇したことを受け、市場では米国の景気後退懸念が台頭。すると、市場ではリスク回避の動きが加速し、BTCは下値を模索する展開となった。その週末の4日には、相場は心理的節目の60,000ドルを割り込むと、週明け5日には円キャリーの巻き戻しによって日経平均株価が市場最大の下げ幅を記録する中、アジアの市場のリスクオフムードに影響され、BTCは一時50,000ドル近辺まで急落を演じた。
一方、相場は50,000ドルの節目で反発すると、翌6日に全米供給管理協会(ISM)が発表した7月のサービス業購買担当者景気指数(PMI)の上振れ(予想:51、結果:51.4)を受けて50,000ドル台後半まで戻すと、米国の景気後退懸念が徐々に和らぐ中、8日には62,700ドル周辺まで上伸した。
その後のBTC相場は中東情勢の緊迫化や、米政府によるBTC売却の思惑が上値圧迫要因となった一方、7月の米卸売物価指数(PPI)や消費者物価(CPI)がインフレの継続的な鈍化傾向を示したことで下値を支えられ、60,000ドル周辺で揉み合う展開が続いた。
16日には、米民主党大統領候補のハリス氏が経済政策方針を発表し、暗号資産(仮想通貨)への言及はなかったが、増税強化を強調した政策が嫌気され支持率が低下。これによりビットコインマイニングや政府の戦略的準備金としてBTCの購入を目指すトランプ氏の支持率が復調し、相場も徐々に上向いた。
23日には、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長がジャクソンホール会議で講演を行い、「金融政策を調整する時が来た」と発言し、9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)からの利下げ着手を示唆した。これを受けてBTCドルは65,000ドルに肉薄する場面もあったが、週明け26日には、28日のエヌビディアの決算発表を控え大型テック株が軒並み軟化し、BTCも連れ安となると、相場は200日移動平均線の維持に失敗し、27日にはロングの投げを伴って23日の上げ幅を吐き出した。
それ以降、月末にかけてのBTCドルは方向感に欠ける展開が続き、月足終値は60,000ドルを下回る58,971ドルとなった。
米利下げ直近も際どい状況に
7月の米雇用統計が弱かったことで、景気後退懸念の台頭と共にFF金利先物市場では9月のFOMCでFRBが50ベーシスポイント(50bp)と大幅な利下げを決定する可能性が急速に織り込まれた。一方、その後発表されたサービス業PMI、小売売上高、さらにはGDP成長率といったデータが強めに出たことで、景気後退に対する懸念は落ち着いていったものの、大幅利下げ観測に修正が入り、BTCにとっては方向感を示しづらい状況となった。
足元では米国の景気が冷え過ぎずも加熱し過ぎもしないゴルディロックスな状態を指摘する声もあり、米株式市場では8月上旬の悲観ムードの面影はかなり薄れている。その一方、9月10日時点でFF金利先物市場では、依然として30%ほど9月FOMCでの50bp利下げが織り込まれており、修正の余地が残っているとも言える。
9月のFOMCまで1週間ほどあるが、既に発表されている8月の製造業・非製造業PMIや雇用統計は強弱まちまちな内容となっており、FOMCでの利下げ幅には不透明感が残っている。
さらに、9月のFOMCでは四半期毎に発表されるFRBの経済見通し(Summary of Economic Projection、SEP)も注目される。SEPではFRBによる政策金利の今後数年分の予想の他に物価やGDP成長率の見通しも示される。これまでのFOMCでは物価の見通しが政策金利の次に注目されていたと言えるが、9月からはGDP成長率や失業率の見通しの方が重要視されるだろう。
現状、FRB高官らから景気後退を強く危惧する声は挙がっておらず、GDPや失業率の見通しが大幅に悪化する公算は低いとみているが、仮に9月のSEPで大幅な見通しの修正が入れば、景気への懸念が再燃する可能性もあるだろう。
9月の見通し:「三本の柱」遂に完成か?
FRBによる利下げが濃厚になりつつも先行きを読み難い状況となっているBTC相場だが、FRBが景気後退を招かずに利下げに着手できれば、BTC相場には追い風となろう。そのためには、FOMCでFRB底堅い景気の見通しを示し、市場の懸念を抑制させる必要があり、イベントを通過するまでBTC相場は不安定な値動きが続くだろう。
ただ、米国の金融政策が利下げサイクルに突入するとなれば、株式市場のマーケットサイクルでいう「金融相場」が到来する可能性が指摘され、BTCを含む代替資産への投資需要が増す可能性がある。
予てから2024年のBTCには3つの強材料:①現物ビットコインETFの承認、②ビットコインの半減期、③FRBの利下げがあると言ってきたが、今月でその全てが揃う見通しだ。半減期でBTCの供給が絞られ、FRBの利下げで投資需要が増す環境ができれば、ビットコインETFというアクセシビリティの高い投資商品によって資金流入が加速し、相場の上昇に拍車を掛けるだろう。
足元のETFへの資金フローは純流出が続いているが、ジャクソンホールでパウエルFRB議長が9月の利下げを示唆した後にはおよそ1カ月ぶりに2億ドルを超える資金の純流入が二営業日連続で確認されるなど、BTCはやはりFRBの金融政策に反応しやすいと指摘される。
景気の見通しを巡り、上述の通り目先のBTC相場は不安定な値動きが想定されるが、今月こそ方向感が出始めると指摘される。よって、今年2月〜3月の相場上昇以降、BTC相場は高値での揉み合いが続いてきたが、ブレイクアウトへの準備は着々と進んでいるとみている。
尚、9月6日に発表された8月の米雇用統計を受けて相場は一時下落、下降チャネル下抜けには失敗したものの、FOMCまでに65,000ドル付近まで相場が戻すには材料不足と指摘され、9月中のブレイクアウトはあまり現実的ではなさそうだ。
他方、11月の米大統領選が近づくなか、仮想通貨に友好的なトランプ氏は支持率でハリス氏をリードしており、トランプ氏の支持率がさらに上昇するようなイベントがあれば、BTC相場の支援材料となろう。ただ、現地時間10日に予定されているABC News主催のテレビ討論会では、ハリス氏が優勢になるとの見方が強く、やはり今月中のBTC相場のブレイクアウトはあまり期待できないか。