ブレイクアウトを試すBTC 米大統領選まで1カ月を切る:10月のBTC相場
5.5万ドル割れから1万ドル幅の復調
9月のビットコイン(BTC)ドルの始値は58,966.2ドル。3日には心理的節目の60,000ドルに肉薄するも、手掛かり不足で失速すると、全米供給管理協会(ISM)が発表した製造業景気指数(PMI)が47.2と市場予想の47.5を下回り、軟調地合いに転じた。加えて、6日発表された8月の米雇用統計で月間の非農業部門雇用者数が予想の+16万人を下回る+14.2万人となった他、前月分も下方修正されたことで、BTCは一時55,000ドルをも割り込んだ。
しかし、雇用統計では失業率が4.3%から4.2%に改善したことでBTCの下げは一時的となり、週明け9日からは徐々に戻りを試すと、11日発表の米消費者物価指数(CPI)の低下(+2.9%→+2.5%)や、エヌビディアのフアンCEOがチップ需要が依然として旺盛であると発言したことで、BTCは13日に60,000ドルを回復した。
その後、相場は18日の米連邦公開市場委員会(FOMC)を控え小緩む展開となるも、前日には利下げ開始期待から反発。FOMCでは50ベーシスポイント(bp)の大幅な利下げが決定された一方、経済見通し(Summary of Economic Projections、SEP)ではGDP成長率の見通しが前四半期からほぼ据え置きとなったことで、「利下げサイクル突入+ソルトランディング」の期待からBTCは続伸。翌20日には一時64,000ドルにタッチした。
23日朝方には、米大統領選民主党候補のハリス氏が「AIやデジタル資産のような革新的技術を奨励する」と初めて仮想通貨にポジティブな発言をし、BTCは65,000ドルを試した。また、26日発表の米新規失業保険申請件数の低下、27日の8月米個人消費支出(PCE)価格指数の下振れを受け、相場は一時66,000ドル台に乗せた。
一方、月末30日には、自民党総裁選で石破氏が新総裁に就任したことによる「石破ショック」を受けて日経平均株価が急落。BTCもこれに連れて水準を下げ、9月の終値は63,245ドルとなった。
米利下げ始まったが、続くのか?
BTCドルは9月末にかけての上昇で、一時は3月から続く下降チャネルの上限を終値で上回ったものの、30日に反落して上放れに再び失敗した。加えて、中東情勢の悪化で相場は一時心理的節目の60,000ドル下抜けを試す展開となった。
しかし、直近2カ月と同様に、BTCは月初に下げるパターンとなったが、8・9月とは要因が異なる。8月は日銀による利上げに伴う円キャリーの巻き戻しと、米雇用統計の大幅下振れを受けた米経済の景気後退入り懸念がBTC相場の重石となった。9月はISMの製造業PMIと米雇用統計の下振れによるリスクオフだった訳で、共有して米国の雇用統計が相場下落に絡んでいた。
一方、10月4日に発表された9月分の米雇用統計では、月間の非農業部門雇用者数が前月の15.9万人を上回る25.4万人となった他、失業率は4.2%から4.1%といずれも市場予想よりも改善した。これを受けて米国市場ではNYダウが終値ベースで史上最高値を更新、米長期利回りは9月の下げ幅を一気に奪回するなど、リスクオンムードが強まり、BTCドルも上昇して62,000ドルを回復。週明け7日には200日線を試す展開となり、下降チャネル上抜けも直近となっている(第2図)。
ただ、9月の雇用統計には気になる点もある:前年比の平均賃金が市場予想の+3.8%を超えて+4%に加速した点だ。同指標は今年の7月におよそ3年ぶりの低水準となる+3.6%まで下がっていたが、8月には+3.8%と2カ月連続で伸びが加速している。
言うまでもなく、賃金上昇の加速は物価上昇の燃料になることから、FRBの政策にも影響が出てくる可能性がある。9月のFOMCでFRBは50bpと大幅な利下げに踏み切った訳だが、インフレが再燃すれば11月は50bpや25bpの利下げどころか金利を据え置く選択肢もでてくるだろう。FOMCの経済見通しでは、今年は残り2回のFOMCで計50bpの利下げが想定されており、市場としても2年6カ月続いた利上げサイクルが終わり、利下げサイクルが始まったという認識があった訳だが、そうした市場の観測も足元では巻き戻し、政策金利動向に敏感な米2年債利回りは10月に入って直近1カ月の下げ幅を完全に奪回した。
要するに、直近2カ月ほどでは米経済の景気後退への懸念から市場ではインフレよりも雇用統計が注視されていたが、10月は再びインフレ指標に市場の焦点が戻ったと言えるだろう。BTCにとっても利下げが続くか否かが重要な材料と指摘され、インフレの継続的な鈍化が確認されれば、ブレイクアウトの確率も上がるとみている。
米大統領選まで1カ月を切る
世界の暗号資産(仮想通貨)業界が注目する米国の大統領選挙が11月5日に迫る中、9月には進展があった。それまで仮想通貨に関しては言及してこなかった民主党候補のハリス氏が初めて仮想通貨を奨励すると発言した。
7月21日にバイデン米大統領が選挙戦から離脱を表明して以降、ハリス氏の仮想通貨に対するスタンスが業界で注目されていた。バイデン政権の厳しい姿勢を踏襲しトランプ氏とは対照的な方針となるかが警戒され、一部では「ハリスならBTCは売り」という声も散見されたが、バイデン政権と比較すればスタンスの軟化が期待できそうだ。
ただ、ビットコインを国家の戦略的準備資産とし、米国でのマイニングを全面的に支持するトランプ氏と比較すると、ハリス氏の仮想通貨に関する政策方針は具体性に欠ける。同氏の23日の発言に対する市場の反応もそれほど大きくなかった。これはBTCにとって長期的にネガティブな材料ではないと言えるが、国家の財政・経済戦略にビットコインを盛り込むトランプ氏の方が圧倒的にベターな候補という市場の認識が示された格好か。
そんなトランプ氏は予測市場のポリマーケットでの勝率を伸ばしており、8日には一時54.3%とリードを広げた。このままトランプ氏がリードし続ければ、BTC相場の下支えになるとみているが、期待感が増せば増すほどハリス氏が逆転した際の失望売りにも注意が必要だろう。
遂にブレイクアウトするか?
9月FOMCでの利下げが決定されたことで、「現物ビットコインETFの承認」、「ビットコインの半減期通過」、「FRBによる利下げ開始」とBTCの強気相場入りのためのパズルのピースが出揃ったかのように見えた。しかし、上述の通り、FRBによる追加利下げの有無はこの先のインフレ指標に大きく左右されると言え、BTCが下降チャネルからブレイクアウトするにはインフレの継続的な鈍化が重要と言えよう。
ただ、相場は既に200日線の回復を試し、チャネル上限を射程圏内に入れており、トランプ氏がリードをさらに広げることができれば、期待感からのブレイクアウトも可能性としてはゼロではないか。
月初には中東情勢の悪化でETFから約2億ドルの純流出が確認されたが、足元ではフローの改善も観測されている。
BTCはおよそ7カ月もの間下降チャネルで揉み合う展開が続いており、ブレイクアウトに成功すれば相応に速いペースで上値を伸ばすと指摘される。以前にも指摘の通り、ブレイクアウト後の相場は保ち合い直前と同等幅で動くとパターンフォーメーションでは言われる。BTCは3月に下降チャネルを形成し始める直前、1月〜3月に約35,000ドル上昇しており、9月安値の52,530ドルから試算すれば87,000ドル台がターゲットとなる。