BTCは調整続く 切っ掛けに乏しくも底堅さを維持できるか:5月のBTC相場
上値重くも60,000ドルは維持
4月のビットコイン(BTC)対ドルは71,000ドル台から取引を始めると、1日に全米供給管理協会(ISM)が発表した3月の製造業購買担当者景気指数(PMI)が20カ月ぶりに50を上回ったことで、65,000ドル近傍まで下落し、幸先の悪いスタートとなった。一方、3日の米サービス業PMIの下振れと4日の米新規新津業保険申請件数の上振れを受けて相場は復調すると、8日には70,000ドルを回復し、一時は72,000ドル台に乗せた。
これによりBTCドルは3月から続いた三角保ち合いからのブレイクアウトに成功したものの、10日に発表された3月の米消費者物価指数(CPI)の上振れ(市場予想3.4%、結果3.5%)を受けて67,000ドル台まで下落。その結果、シカゴマーカンタイル取引所(CME)のBTC先物が窓埋め達成で反発し、現物相場も切り返したが、12日にはシリアのイラン大使館を攻撃したとされるイスラエルに対し、イランが報復する可能性が伝わると、相場は下げ足を速め65,000ドルまで下落。週末14日未明には実際にイランによる対イスラエル空襲が行われ、相場は61,000ドル近辺まで下落した。
翌週は週明けから中東情勢の緊迫化により米株式市場の軟化に影響されBTCドルも弱含む展開が続いた。また、12日からは米決算シーズンも始まっており、景気の先行きを懸念した売りも散見され、BTC相場には緩む展開が続き、17日には心理的節目の60,000ドルを試す展開を繰り広げた。
翌18日のBTCドルは、節目からの反発を演じたが、19日東京時間にイスラエルがイランに対する報復を始めたとの速報が転がり込み、相場は一時60,000ドルを下回った。しかし、イスラエルの攻撃が極めて小規模且つ短期間の作戦だったことが明らかとなったことや、60,000ドル周辺で大口のBTC買いが観測されたこともあり相場は急反発を演じ65,000ドルまで戻した。
20日、BTCは840,000番目のブロック生成を完了させ4度目の半減期を通過。今回の半減期直後ではハッシュレートの急激な低下やブロック生成の遅延は生じず、ネットワークが安定を維持したことで相場は小確りと推移し、週明け22日には67,000ドルにタッチした。ただ、24日に発表された3月の米耐久財受注が市場予想の2.5%に対して2.6%と上振れたことで米債利回りが上昇し、BTCは反落。その後は65,000ドルを割り込み小甘い展開が続くと、30日には香港で現物ビットコインETFの取引開始と共に事実売りが入り、相場は60,000ドル近辺まで値を下げた。
5月のBTCは切っ掛けに乏しい?
4月はイスラエルとイランによる報復の応酬という想定外のネガティブサプライズがあったが、BTCは終値ベースでは節目の60,000ドルをなんとか維持した。5月に入ると1日から相場は60,000ドルを割る展開となったが、3日に発表された4月の米雇用統計で月間の非農業部門雇用者数が市場予想の+24.3万人に対して+17.5万人と大幅に下振れたことや、失業率の上昇と平均賃金の伸び鈍化によって、3月のCPI上振れを受けた年内利下げ開始に対する過度な悲観論が後退し、65,000ドル近辺まで戻した。
イスラエルは19日にイラン中部イスファハンの軍事施設の対空システムに攻撃を与えたが、衛生写真で確認できる限り、ダメージは2箇所に止まっており、今回の作戦は小規模だったことがわかる。対するイランは、今回の作戦におけるイスラエルの攻撃を「躱した」と主張しており、大規模な報復を行わない口実を作っているようにも窺える。事態のエスカレーションを望まないG7からプレッシャーを掛けられるイスラエル、軍事的に劣勢と言えるイランと、双方とも身動きが取りづらい状況にあり、暫くは双方の静観姿勢が続くか。
他方、5月6日にはイスラム組織ハマスがカタールとエジプトが提示した停戦案を受け入れたと報じられたが、イスラエル側は同停戦案を拒否。同日もイスラエル軍によるガザ南部のラファ地域での作戦が継続され、中東情勢はいつエスカレートしてもおかしくない状況と言える。
翻って米国では、3月のCPIが上振れたことで市場の利下げ開始予想が6月から9月に先送りとなった。上述の通り、4月の雇用統計の結果を受けて来年までの利下げ持ち越しや利上げ再開といった過度な懸念は後退したが、状況としては年内のどのタイミングで利下げが開始されるか不透明なことに変わりはない。
ただ、インフレに関して言えば3月のCPI上振れに対する市場の反応は過剰だったと見ている。CPIの先行指標となる卸売物価指数(PPI)は依然として2%近辺で推移している他、インフレの中長期的なトレンドを示すトリム平均PCEインフレ率は3.1%から3%に低下しており、直近のインフレ指標の強さは平均回帰の範疇と言えよう(第2図)。
しかし、2023年からPCEがトリム平均PCEを下回って推移していることに鑑みるに、PCEが平均回帰するならば3月の2.7%からさらに上昇する余地もあるということとなり、4月分の米インフレ指標は引き続き強めに出る可能性も否定できない。そうなればFRBによる利下げの開始時期も不透明なままとなり、BTC相場にとっては復調の切っ掛けに乏しい展開となるだろう。
5月の見通し
とは言え、米国のインフレ高止まりは依然として懸念が残るものの、5月に入ると4月の米製造業・非製造業購買担当者景気指数(PMI)や雇用統計が下振れたことで、BTC相場は下支えられている。それに合わせて米国の現物ビットコインETFでは、1月の取引開始以来、資金の純流出が続いていたグレイスケールのGBTCに初めて資金の純流入が確認されるなど、資金フローの改善も窺える。米国の経済指標がまちまちとなる中、やはりFRBによる利下げ開始のタイミングに確信が持てない状況ではあるが、だからと言ってBTCが売られやすい状況という訳でもないと言えよう。
BTCドルは、一時は3月から続く下降チャネルの下限を割り込むも、5月3日には終値でチャネル内に戻しており、5月も同下降チャネルを意識した推移が続くと見ている。
下降チャネルは基本的に上昇トレンド再開を示唆するが、BTCは手掛かり難で5月中にブレイクアウトする公算は低いだろう。