BTCはチャネルブレイク失敗 6月こそ上値を追うか?:6月のBTC相場
下降チャネルからブレイクアウトならず
5月のビットコイン(BTC)対ドルは、1日から心理的節目の60,000ドルを割り込む展開で取引を始め、3月から続く下降チャネル(第1図内紫線)の下限(約59,100ドル)を月初早々に下抜けた。
一方、1日の米時間に発表された4月の米製造業購買担当者物価指数(PMI)は3月の50.3から49.2へ低下し、景気拡大と縮小の閾値となる50を2ヵ月ぶりに割り、米国債利回りは急低下。さらに、翌日明け方に最終日を迎えた米連邦公開市場委員会(FOMC)は金利据え置きを決定し、パウエル議長は懸念されていた「利上げ再開」を否定すると、BTC相場は安心感から56,000ドル台中盤で下げ止まり、戻りを試す展開に転じた。こうした中、3日に発表された4月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が+17.5万人と、前月の+31.5万人から低下し、市場の予想の+24.3万人も大幅に下振れ、BTCは上値を追う展開を繰り広げ下降チャネルの下限を回復、6日には65,000ドルにタッチした。
その後、6日にロビンフッドが米証券取引委員会(SEC)から強制措置の通告を受けていたことが明らかとなると、BTCドルは失速。10日には米ミシガン大学が発表した消費者期待インフレの速報値が上昇(+3.2%→+3.5%)したことで相場は上値を重くしたが、60,000ドル周辺では下げ渋る展開となった。
15日には、4月の米消費者物価指数(CPI)が発表され、結果は前年同月比で+3.4%と3月の+3.5%から伸びが鈍化、前月比では+0.3%と市場予想の+0.4%を下回り、米連邦準備理事会(FRB)による年内の利下げ開始観測が強まり、BTCは65,000ドルを回復。ただ、インフレの鈍化が極めて緩慢なペースだったことから9月の利下げ開始を確信することはできず、その後の相場は現物ビットコインETFへの資金フロー改善に支えられつつも、思うように上値を伸ばせずにいた。
ところが、20日にはブルームバーグのETFアナリストらがSECが現物イーサ(ETH)ETFを承認する確率を突如25%から75%へと引き上げたことで、BTCドルはETH主導で一段高を演じ、僅かに下降チャネル上限をうわ抜けた。現物イーサETFを巡っては、承認される公算が低いとされていたが、ヴァンエックの申請の最終判断期限が23日に迫る中、SECが発行体にルール変更申請にあたるフォーム19b-4の修正を求めたと一部で報じられ、土壇場で承認される可能性が急上昇した格好だ。
しかし、BTCドルはその後、利益確定の売りに押され下降チャネルからのブレイクアウトはダマシとなった。その後も底堅い推移が続いているが、チャネル上限が相場のレジスタンスとなっている。
第1図:BTC対ドルチャート 日足 出所:Glassnodeより作成
割れる米インフレへの見解
FRBは4月30日〜5月1日にFOMCを開催し、6会合連続で政策金利の据え置きを決定した。今回の会合での金利据え置きは、市場では織り込み済みだったためサプライズとはならず、パウエル議長が現状での利上げ再開の可能性を否定したことでむしろ市場には安心感が広がった。
市場が最も注目する利下げ開始のタイミングに関しては、本会合でも具体的な手掛かりはなかったことに加え、14日にアムステルダムで開催されたイベントでパウエル議長は、「インフレ沈静化の進捗にこれまでほど自信はない」とも発言。22日に公開されたFOMC議事要旨では、参加者の殆どが利下げに相当に慎重な姿勢であったことが示されていた。
ただ、5月のFOMCとパウエル議長が発言したアムステルダムのイベントは、4月のCPIの結果が出る以前の出来事であり、3月CPIの上振れを受けたインフレ再燃への警戒感がFOMCメンバーを神経質にさせていたと言える。31日の4月米個人消費支出(PCE)価格指数を通過し、4月の一連の米インフレ指標が出揃い、結果はCPIが3.5%→3.4%、卸売物価指数(PPI)が1.8%→2.2%、PCE価格指数は2.7%→2.7%とまちまちな結果となっているが、先月も指摘の通り注目したいのはトリム平均PCEインフレ率だ(第2図)。
第2図:各米インフレ指標チャート(前年同月比) 出所:FREDより作成
上下双方に変動の激しい項目を取り除いた(=Trimmed、トリム)トリム平均PCEは、毎月のデータからノイズを排除し中長期的なインフレ動向を示す指標として役立てられる。年末年始にかけて同指標は一時的に横ばいとなったが、直近3ヵ月では3.1%→3.0%→2.9%と、着々と伸びが鈍化し続けており、これまで通り米国のインフレは緩慢ながらも鎮静傾向にあると言える。加えて、5月3日に発表された4月の米雇用統計では、前年比の賃金上昇率が4.1%→3.9%へと低下し、4月は前月比の小売売上高や個人消費の伸びもそれぞれ鈍化した。
こうした状況で、FOMCでもタカ派として知られるクリーブランド連銀のメスター総裁とミネアポリス連銀のカシュカリ総裁は、依然として利上げ再開を選択肢として捨てていないと発言したものの、リッチモンド連銀のバーキン総裁やNY連銀のウィリアムズ総裁らは年後半のインフレ沈静化に自信を示しており、FOMCメンバーの中でもインフレへの見方が割れている。
市場も期待を縮ませる
FOMCメンバーの中でインフレ再燃への警戒感が浮上したことで、6月のFOMC後に公開される経済見通し(SEP)では、年内の利下げ回数想定が3月の3回から引き下げられる公算が高い。実際、メスター総裁は、3月のドットプロットでは自身がほぼ中央値に位置していたと明かしたが、現状では年内3回の利下げは多すぎると発言した。
ただ、FOMC議事要旨やこうしたタカ派的なFRB高官の発言を受けて、FF金利先物市場でも年内の利下げ回数予想は9月の一回のみと、年初の四回の利下げ予想からかなり修正が進んだ(第3図)。
第3図:FFR誘導目標レンジ上限(紫)、FOMCの金利想定(青)、市場の金利予想(緑) 出所:FRED、fedwatchより作成
また、市場の利下げに対する織り込み度合いにも注目したい。5月31日時点で、市場は9月に利下げが実施される確率を47%しか織り込んでいない。これは裏を返せば、市場が9月の利下げを織り込む余地は依然として残されているという訳で、景気の減速やインフレの鈍化が確認されれば、9月の利下げ開始予想が増加し、BTC相場にとってはポジティブに働くと言える。
4月の米CPIの内訳を見る限り、物価の上昇を主導したのは原油価格の上昇と言えるが、5月の原油価格は横ばいに終始した。また上述の通り、米国の賃金インフレと個人消費鈍化により、5月のインフレが再び鈍化の軌道に乗っている可能性は高いと見ている。
6月の見通し
5月のBTC対ドル相場は、3月から続く下降チャネルの下限と上限をはみ出る場面もあったが、やはりブレイクアウトには至らずだった。ただ、直近でDMM bitcoinからのBTC不正流出を受けても、相場は下降チャネルの上限付近で推移しており、ブレイアウトは射程圏内となっている。
6月の注目材料であるFOMCは11日〜12日で開催されるが、それまでにISMの製造業と非製造業のPMIや、一連の雇用関連指標が発表される予定となっており、BTC相場のブレイクアウトのきっかけは十分にあると言えよう。
パターンフォーメーションの観点から、下降チャネルからのブレイクアウト後の相場は、チャネル形成直前と同等幅の上昇余地があると言え、BTCドルの上値余地としては90,000ドル近辺と指摘される。
ただ、米国の経済指標が想定以上に強かった場合には注意点もある。4月のビットコイン半減期を通過して以降、ビットコインのハッシュレートは低下基調にあり、ハッシュレートの移動平均線を基に算出される一種のテクニカル指標であるハッシュリボンはデッドクロスを示現している(第4図)。加えて、5月最終週からは1時間あたりの平均ブロック生成もやや遅延気味となっている他、マイナーのネットポジションも日次の純流出額が徐々に増加してきており、BTC相場が水準を下げ続ければ、マイナーによる売り圧力の増加が危惧される。
第4図:BTC対ドルとビットコインのハッシュリボン 出所:Glassnodeより作成
とは言え、4月の米経済指標を見る限り、5月の景気が一重に強くなるとは想定し難い。また、マイニングに関しては相場が暴落でもしない限りディフィカルティの調整によって極端なマイニング収益性の悪化は避けられると言え、現段階ではハッシュレートの動きを横目で監視しておく程度で大丈夫だろう。
よって、6月のBTCドルは、下降チャネルからのブレイクアウトで90,000ドル近辺まで上値余地があると見ている一方、米国の経済指標が想定通りに相場の味方とならなかった場合は、下降チャネル内での推移が続くと指摘される。下降チャネルの下限周辺となる57,000ドルがメジャーな相場のサポートとなるだろう。
第5図:6月BTCドルの下降チャネルと想定レンジ(赤帯) 出所:Glassnodeより作成