BTCは需給悪化懸念で悲観ムード加速 Mt.Gox弁済開始後に要注目:7月のBTC相
またもやブレイクアウト失敗
6月のビットコイン(BTC)対ドルは、67,475ドルで取引を開始した。月初は、4月のJOLTs求人件数や5月のADP雇用統計で月間雇用者増加数が下振れたことや、米国の現物ビットコインETFへの資金フローが改善したことで70,000ドルを回復し、3月から続く下降チャネルの上限を僅かに上回った。しかし、7日に発表された5月の米雇用統計で、非農業部門雇用者数の増加と平均賃金の伸びが市場予想を上回ったことでBTCは反落し、節目70,000ドルと下降チャネル上限を割り込んだ。
11日には、コインベースへの大口イーサ(ETH)送金が確認され、BTCは66,000ドル周辺まで急落。翌12日には、5月の米消費者物価指数(CPI)下振れを受けて下げ幅を奪回するも、米連邦公開市場委員会(FOMC)がタカ派的な内容となり、上げ幅を縮小。FOMC後のドル高が相場の重石となり、結局はCPI後の上げ幅を全て吐き出した。
6月後半のBTC相場は、引き続きアルト相場の軟化やドル指数の上昇が相場の重石となり、65,000ドル下抜けを窺う展開を繰り広げると、24日にはMt.Gox管財人事務所が7月からのBTC・ビットコインキャッシュ(BCH)の弁済を開始すると発表し、一時は58,693ドルまで急落した。
一方、その後の相場は節目60,000ドルを割った目標達成感から反動高を演じ、月末まで60,000ドル台前半での揉み合いが続き、月足は-7.01%安の62,754ドルとなった。
データはよかったが...?
5月の米経済指標は、雇用統計の上振れサプライズがあったものの、消費者物価指数(CPI)、卸売物価指数(PPI)、個人消費支出(PCE)価格指数は、それぞれ+3.4%→+3.3%、+2.3%→+2.2%、+2.7%→+2.6%と前年同月比で伸びが鈍化。FF金利先物市場はCPIを通過するまで年内利下げ回数の予想を1回〜2回で決めかねていたが、現状では9月と12月で2回の利下げがコンセンサスとなっている。
このようにインフレ動向だけを見れば、米連邦準備理事会(FRB)による年内の利下げが正当化され、BTC相場にはポジティブに見受けられるが、実際の6月のBTC相場は軟調となった。
6月FOMCでは金利見通しがアップデートされ、年内の利下げ回数は先月の当方予想の2回を下回る1回となった訳だが、上述の通り、市場は依然として年内に2回利下げが行われることを予想しており、タカ派的だったFOMCが月後半の相場に影響した訳ではなさそうだ。
気掛かりなのは6月のドル指数の上昇だ。6月前は米国債利回りが低下する場面でもドルが上昇していた(第2図)。ドルでの取引が主流なコモディティにとってそもそもドル高は相場の重石となることがある訳だが、6月のドル高はフランスの政局不安を背景としたユーロ安に起因するリスク回避のドル高だった可能性が指摘され、ボラティリティの高いBTC相場には重石となった模様だ。
加えて、BTCドルはFOMC通過後の6月14日にダブルトップのネックラインを下抜け、上昇トレンドの反転シグナルが点灯、21日には強い売りシグナルとされる一目均衡表の三役逆転が完成し、テクニカル的な地合いが悪化した(第3図)。そんな中、BTCには需給面では、①米国とドイツ政府による複数回に渡る取引所へのBTC送金、②半減期後のマイナーの換金需要増加(第4図)、③7月から始まるMt.GoxのBTC弁済開始を懸念した売りなどが相場の重石となった格好だ。
7月の見通し
堅調な米株式市場、低下する米国債利回り、そしてFRBによる9月の利下げ着手が市場で意識される状況を持ってしても、BTC相場は軟調地合いが続いており、需給悪化に対する懸念は引き続き相場の上値圧迫材料となろう。
実に10年越しに実現するMt.Goxの弁済を巡っては、同社が保有するBTCは約14.3万BTCとされ、ドル建てでは82億ドル(≒1.3兆円)に上るが、その全てが売られるとは考え難い。また、米国の現物ビットコインETFに、1日に平均して1.2億ドルの純流入があると考えれば、売り圧力は2ヵ月強で吸収される程度だと仮定できる。市場からも「古参勢はそう簡単にBTCを手放さない」という憶測から、相場への影響は軽微だろうとの声が散見され、カルプレス元CEOも市場の警戒感の方が「実際のイベント以上に大きなインパクトを与えている」と時事通信社に語った。
弁済開始後に売り圧力が実際にどれほど発生するかは未知数ではあるが、7月に入るとBTC相場は下げ足を速めており、「噂で買う」の反対で「噂で売られる」状態と言える。だとすれば、弁済が始まり相場への影響が実際に軽微だった場合、BTCには「事実確定売り」ではなく「事実確定の買い戻し」が入ると指摘され、ようやくアク抜け感も出てくるだろう。
それまでにBTC相場がどこまで下げるかも問題で、7月5日時点で相場は既に心理的節目の60,000ドルを割り込み、高値レンジ下限の56,500ドルも下抜け50,000ドル台中盤まで下げている。ただ、意外にもBTCのオプション市場では、50,000ドル台前半やそれ以下のアウト・オブ・ザ・マネー(OTM)のプットを積極的に物色する動きは確認されない(第5図)。勿論、今からセリングクライマックスがくるとすれば、相場は心理的節目の50,000ドルまで下値余地がある見ているが(第6図)、オプション市場の動きから鑑みるに、市場はMt.Goxの弁済をこなせば相場は速やかに60,000ドル周辺まで復調し、50,000ドル台中盤以下で相場が停滞する可能性は低いことを織り込んでいると指摘される。
足元では悲観ムードが強まっているBTC相場だが、需給懸念で最も意識されるMt.Goxの弁済を消化すれば、市場の意識はFRBの金融政策や米大統領選に向かうと指摘され、悲観ムード解消は時間の問題と見ている。