給付金の10万円は仮想通貨市場に注ぎ込まれているか?

今年4月、本邦政府は新型コロナウイルス救済プログラムの一環として、地方自治体を通じた家計への10万円の特別定額給付金の給付を開始しました。6月16日までに全ての自治体で給付が開始され、月末には全国平均で6割弱の世帯が給付金を受け取ったと報じられています。ご存知の方も多いと思いますが、米国での給付金開始と株式市場の上昇が重なった為、主要メディアは一般投資家が景気刺激策の給付金を利用して株を買っていると指摘しています。給付金の効果はCoinbaseでも確認され、1,200ドルの注文や入金が増加したと報告されています。
そこで本項では、bitbankにおいて金額が10万円以下と丁度10万円の入金件数を、年代別(第1図)と地方別(第2図)で分解し、本邦で給付金給付が始まった今年の第2四半期の入金パターンに何かしら変化があったかどうか分析していきます。
まず何よりも、3 月にほぼ全ての年代と地方において入金件数が大幅に増加しており、日本の個人投資家がビットコイン(BTC)やアルトコインを安値拾いしていたサインが確認されます。しかし、その勢いは翌月にから後退し、4月は比較的に高い出来高があったにも関わらず全年代と地域で入金件数が激減しました。この頃には政府はすでに家計への給付金給付を決定しており、一部の地域ではすでに給付が始まっていましたが、給付金効果は特に確認されませんでした。
一方、6月に入ると入金件数に若干の異変が見られました。第1、2図に見られるように、20〜30代の若年層と40代、そして関東圏で丁度10万円の入金が前月比でやや増えていました。また、6 月には 40代のユーザーの 10万円の入金件数が 20代のそれを上回っていました。この月は出来高が減少する中で10万円ぴったりの入金が増加しており、給付金の影響が「若干」はあったように見えます。
しかし、6月の入金件数は、過去に月次BTC出来高が同等だった月(2019年9月〜2019年12月)と比較すると決して多くはなく、「多くの日本人投資家が給付金を利用して暗号資産(仮想通貨)を購入している」と結論づけることはできないでしょう。つまり、5月以降、若年層と関東圏からの10万円丁度の入金件数に前月比で若干の増加が見られた一方、出来高のトレンドを考慮すると件数自体はそれほど多くなかったということになります。


bitbankでの給付金の影響が小さかったのは、本邦消費者の投資に対する傾向に起因しているのではないかと指摘されます。日本の一般的な家計の金融資産構成は、15%が金融資産(保険、年金、定型保証を除く)で、50%が現金・預金であるのに対し、欧米の平均的な家計では日本と比べ金融商品への配分が多いというデータがあり、日本人は投資よりも貯蓄をする傾向が強いようです。こうした傾向は給付金の使い道を尋ねたアンケートでも顕著に見られ、一般的に「生活費・消費」が給付金の使い道として最も多く、次いで「貯蓄」であり、給付金の使い道として「投資」はあまり一般的ではないようです。
よって、日本の消費者の大多数は給付金を生活費に使うか将来のために貯金する可能性が高く、その資金を仮想通貨のような代替資産に費やすことはそれほど期待できないと言えそうです。また、若年層と関東圏で10万円の入金が若干増傾向になっていますが、全体件数としてはこれまでの市場のトレンドを覆すような入金件数は確認されず、人口の多い都市の一部で給付が滞っているとの報道もありますが、給付金が新規の資金流に繋がる可能性はかなり低いと言えるでしょう。

給付金に関するアンケートの参考: