10万ドル手前で揉み合うBTC FOMCと米債務問題に注目:12月のBTC相場
ビットコイン版トランプトレード炸裂
11月のビットコイン(BTC)ドルは70,202ドルから取引を始めると、5日に控えた米国の大統領選で民主党候補のカマラ・ハリス現副大統領が世論調査で若干リードを広げたことで、トランプトレードの巻き戻しが発生し、弱含みに推移した。一方、投開票が始まると、6日の東京時間には激戦州ペンシルベニアの出口調査で共和党候補のドナルド・トランプ氏が僅かにリードしたとのロイターの報道を切っ掛けに相場は急伸し、3月につけた史上最高値73,742ドルを上抜け、一気に76,000ドル台に浮上した。
同日にはトランプ氏の勝利が確定し、BTCは上げ渋る展開に転じるも、BTCのオプション市場でアップサイドのコール需要が高まったことでガンマスクイーズが発生し、相場は10日から11日にかけて上値を追う展開となり、節目の90,000ドルにタッチした。
その後もBTCは底堅い推移が続くも、90,000ドル台では利益確定の売りで上値を抑えられていたが、19日にはブラックロックの現物ビットコインETF(IBIT)オプションの取引がナスダックで開始されたことを切っ掛けに強含むと、第2次トランプ政権がホワイトハウスに暗号資産(仮想通貨)特命官ポストの設置を検討しているとの報道や、トランプ氏の仮想通貨諮問委員会が米国の戦略的準備BTCの設立を実現させる見通しとの報道を受けて、相場は22日に99,611ドルまで上昇。大台の100,000ドルが目前に迫った。
一方、23日からはのBTCは上げ渋り、25日には中東情勢の収束期待を受けたコモディティ価格の急落が相場の重石となり、利益確定の売りが加速。26日には91,000ドル周辺まで水準を下げた。
しかし、これにより相場の値幅調整が始まるかと思いきや、翌27日には第2次トランプ政権で米証券取引委員会(SEC)委員長にFinTech推進派のポール・アトキンズ氏が有力候補として挙がっているとの報道や、10月の米耐久財受注の下振れを材料に相場は反発。29日にはデリビットのオプションカット後に更に上昇し、98,622ドルまで水準を戻した。ただ、28日から米国が感謝祭の祝日に入ったことで商いは思いの外伸びず、週末の30日には失速し、月足終値は96,514ドルで引けた。
ターゲットを超えて大台目前
10月にBTCドルは下降チャネルのブレイクアウトに成功し、上値のターゲットとしては下降チャネル形成前の上昇トレンドの値幅と同等幅として、90,000ドル手前を想定していた(第2図白線)。しかし、予測市場でもトランプ氏の勝利は織り込み切れていなかったことや、IBITのオプション取引開始、更にトランプ政権の高官人事で親仮想通貨派に転じたベッセント氏が財務長官として指名されたことや、アトキンズ氏の名が挙がったことで、想定以上に上値を伸ばした格好だ。
11月末にかけては大台の100,000ドルを目前に失速したBTC。テクニカル的な過熱感も確認される中で依然として今月も上値余地があるかが焦点となるが、BTCは前回の半減期サイクルの史上最高値を更新する局面において相場の上昇ペースは速い上に4カ月から1年ほどと持続性が確認される(第3図)。
こうして相場が史上最高値を更新し青天井となると、新規参入や出戻り勢からの資金流入によってオンチェーン上で短期筋(Short-term Holder: STH)が増加し、その需要に対抗する形で長期筋(Long-term Holder: LTH)の供給が減少し相場が上昇するといった需給構造の変化が度々確認されてきた(第4図)。足元でも今年の3月ぶりにBTCのLTHが低下し、STHが上昇しており、トランプトレードの影響で新規の資金流入が指摘される。
FOMCと今年最後の注目材料
ただ、米大統領選挙も落ち着いて市場の関心が12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)に移る中、追加利下げの有無を巡って目先ではこうした新規の資金流入が鈍る可能性もある。
米連邦準備理事会(FRB)は11月のFOMCで2会合連続の利下げに踏切ったが、パウエルFRB議長はその後発表された消費者物価指数(CPI)などのインフレ指標の加速を鑑みて「利下げを急ぐ必要はない」と発言した。これにより米債利回りは上昇し、FF金利先物市場では来年にかけての利下げ見通しが3回から2回に上方修正された(第5図)。
BTCはトランプトレードの影響で金利高の影響を受けなかったが、市場は12月FOMCでの追加利下げの確率を70%程を織り込んでおり、仮に利下げが見送られればBTCにとっては大きなネガティブサプライズとなり得る。
勿論、FRBメンバーの中でも利下げペースを巡って意見が統一されている訳ではなく、ウォーラーFRB理事は今月2日、政策が引き続き景気抑制的であることから追加利下げを支持していた。また、18日のFOMCまでに11月の雇用統計(6日)やCPI(11日)の発表を控えており、特に月間雇用者数が10月から思うように回復しなければ、FRBが予防的に追加利下げに踏み切る可能性は高くなるだろう。
他方、来年1月2日の米連邦政府の債務上限適用再開に向けて、膨らみ続ける米国の財政赤字もBTC市場にとっては注目材料となりそうだ。米共和党は上下両院で過半数を獲得したため、トランプ政権は連邦政府のデフォルトを回避しやすいことは事実だが、債務上限の引き上げや適用停止では財政赤字拡大の根本的な解決にはならない。
加えてトランプ政権の政策の要には減税や関税強化があり、連邦政府の財政赤字は一層膨らむ見通しだ。そこにFRBの利下げペースにブレーキが掛かれば、金利高止まりによって公的債務の利払いが更に政府の財政を圧迫すると指摘され、長期的には債務上限問題が国や国債の信用毀損を招くだろう。
米大統領選挙後に金利高にも関わらずBTCが上昇した背景にはこうした「国の信用低下」に対するヘッジの先出しだった可能性も指摘され、債務上限問題が意識され始めれば、BTCは再び強地合いとなるか。
12月の見通し:窓埋めor上伸
以上の通り、12月はFRBの追加利下げと米連邦政府の債務上限問題がBTC相場の支援材料となるとみており、大台の100,000ドル上抜けをメインシナリオと想定する。尚、海外の主要取引所では、100,000ドル手前、約98,000ドルから売り板が分厚くなっているが、この売りをこなせば相場が上値を追う展開となると指摘され、大統領選直後の同様に20,000ドル程上昇余地があるとみている。
一方、仮に米国の雇用統計やCPIが強めな結果となり、FRBが利下げを見送れば、相場は90,000ドル台の維持に失敗し、高値警戒感から売りが加速するだろう。この場合、下値目途としては、シカゴマーカンタイル取引所のBTC先物が11月11日に開けた約78,000ドルから80,000ドル窓まで相場が下げ足を速める可能性もあるとみており、今月も11月に引き続き相場が大きく動く可能性に注意しておきたい。