BTCは強かった7月から一転 ジェットコースター相場で上げ幅解消:8月のBTC相場
テクニカル的窮地から復活
7月のビットコイン(BTC)対ドルは62,673ドルから取引を始めると、ドイツ政府による段階的BTC売却とMt.Goxによる弁済のテストBTC送金を受けて4日には60,000ドルを割り込んだ。翌5日にはMt.Goxの弁済が始まり、相場は53,903ドルまで安値を広げるも、Mt.Gox管財人事務所から正式に弁済開始の発表があると、相場は事実買い気味に50,000ドル台後半まで反発した。その後もBTCドルは上値の重い展開が続くも、6月の米雇用統計で失業率が上昇したことに加え、4・5月の月間非農業部門雇用者数が下方修正された他、米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が利下げの可能性を示唆する発言をしたことで、50,000ドル台半ばでの揉み合いに転じた。
一方、13日にはドイツ政府が段階的に売却していたBTCが底をつき、BTCドルはジリ高に転じた。さらに翌14日の朝方には、暗号資産(仮想通貨)支持派となったトランプ前米大統領が、米ペンシルヴェニア州での共和党の政治集会中に銃撃され右耳を負傷し地面に倒れ込むも、SPに囲まれながらすかさず立ち上がり拳を突き上げる不屈の立ち振る舞いを披露すると、同氏の大統領選キャンペーンに勢いがつき、BTCドルは上値を追う展開となり16日には65,000ドルを回復、チャネル下限下抜けというテクニカル的な窮地からの復活に成功した(第2図)。
同16日には、Mt.Goxが5万弱BTCをクラーケンに送金したこともあり、相場は一時反動安となり62,000ドル台まで押す場面もあったが、押し目買いの様相ですかさず反発。19日には、セキュリティソフトを手がけるクラウドストライクのアップデートに伴う障害で世界的な大規模システム障害が発生する中、BTCドルは67,000ドルを回復すると、その週末21日にバイデン米大統領が大統領選からの撤退を発表し、副大統領のハリス氏を支持したことで、相場は下降チャネルの上限にタッチした(第2図)。
その後は利益確定の売りが入り相場は失速すると、23日には米政府によるBTCの売却とMt.Goxの弁済第三弾が実施され、BTCは一時654,000ドルを割り込んだが、6月の米個人消費支出(PCE)価格指数が前月の+2.6%から+2.5%に鈍化した他、Bitcoin 2024カンファレンスで複数好材料がでて反発。27日には、トランプ大統領がBitcoin 2024で登壇し、米国の戦略的準備金にBTCを加える方針や、米政府が現在保有するBTCを売らないことを約束すると、週明け29日に相場は70,000ドルにタッチした。
しかし、心理的節目の70,000ドルでは利食いが入り相場は反落。月末にかけては中東情勢の緊迫化も相場の重石となり、終値は64,576ドルとなった。
FRBの利下げが近づいたが、、、?
米連邦準備理事会(FRB)は7月30日から31日に開催した連邦公開市場委員会(FOMC)で政策金利誘導目標レンジ(5.25%〜5.5%)の据え置きを決定し、パウエルFRB議長は会合後の記者会見でインフレ鈍化の進捗に一定の評価を示し、9月利下げ開始の可能性を示唆した。
しかし、これまでFRBもインフレの鈍化と経済のソフトランディング(軟着陸)を想定していたが、8月1日に米ISMが発表した7月の製造業PMIは、市場予想の48.8を下回る46.8となり、新規受注や雇用指数も下振れた上、翌2日に発表された7月の米雇用統計では月間の非農業部門雇用者数が市場予想の17.5万人を大きく下回る11.4万人となった他、失業率が4.1%から4.3%に上昇し、市場ではソフトランディング期待が後退しハードランディング(強行着陸)への懸念が台頭した。これにより、米国債相場は上昇(金利は低下)、米株は下落と一気にリスクオフムードが強まり、BTCは下値を模索する展開となると、5日には日経平均株価が過去最大の下げ幅を記録する中、7月の上げ幅を完全に吐き出し、50,000ドルにタッチした(第3図)。
こうした経済指標を受けて、フェデラル・ファンド(FF)金利先物市場では、FRBによる9月の50ベーシスポイント(bp)の利下げが95%ほど織り込まれ、年末までに125bpの利下げが約57%織り込まれた(8月5日時点)。これまで2024年のBTC相場のメインシナリオの概要としては、①ビットコインの半減期による供給の半減、②FRBの利下げによる投資需要の増加、③それから現物ビットコインETFによる資金流入の円滑化の3本建で強気相場の到来を想定していたが、FRBの利下げへのスムーズな転換にはソフトランディングが条件となる。
一方、市場の反応はやや大袈裟な印象も受ける。勿論、景気後退の懸念が台頭すれば、ボラティリティの高い暗号資産(仮想通貨)から売られるのはリスクマネジメントの観点では当然のことだが、現状では製造業PMIと雇用統計が弱めにでたまでで、米経済のハードランディングが確定している訳ではない。さらに、FRBは2022年から始まった利上げサイクルで上述の通り政策金利の誘導目標レンジを5.25%〜5.5%まで引き上げており、景気後退に対応する手札を依然として残している。
よって、BTC相場の50,000ドルタッチは、現状ではそれほど悲観的には見ていない。相場は5月と7月にも下降チャネルの下限を割り込む場面があり、終値ベースで見れば今回もダマシとなる可能性もまだあるだろう。
ただ、景気後退の懸念はFRBが利下げをしたところで即座に解消される訳ではない点にも注意が必要だ。8月は米国の経済指標一つ一つを監視して、インフレの継続的な鈍化と景気の底堅さを改めて確認する必要があると言えよう。
米大統領線、どっちに転んでも悪くない?
7月の注目ポイントとしては、トランプ前米大統領が準備金としてビットコインを政府で保有する方針を発表したことが注目されたが、バイデン米大統領が選挙戦から撤退し、副大統領のハリス氏が正式に民主党の候補者となったことにも注目だ。
一時はハリス氏が仮想通貨規制強化派のエリザベス・ウォーレン議員を副大統領候補に指名するのではないかという噂も流れ、仮想通貨業界には不穏な空気が漂ったが、8月5日時点ではペンシルベニア州知事のジョシュ・シャピロ氏が最も有力な候補となっている。シャピロ氏はペンシルベニア州での仮想通貨マイニングを支持しているなど、業界にとっては歓迎できる候補者となっている。
また、ハリス氏の台頭は民主党にとってバイデン政権の業界に対する厳しいスタンスからの転換点として絶好のチャンスである。バイデン政権はトランプ氏が仮想通貨支持を表明する今年の5月まで業界の規制強化を推し進めていたが、バイデン氏の選挙戦離脱を皮切りに民主党内の仮想通貨支持派の議員たちが、ハリス氏に業界に対して友好的なスタンスをとり関係を修復するよう働きかけ始めている。
そもそも、米国では人口の約40%が仮想通貨を保有していると言われており(security.org調べ)、必要以上の業界の規制強化や不利な税制改正は選挙戦に不利に働くと言えよう。
現状、トランプ氏の大統領選での勝利の方が明らかに仮想通貨業界にはポジティブと言える一方、ハリス氏の仮想通貨に対するスタンスは依然として不明瞭だ。しかし、国民の関心や民主党内からの圧力に鑑みれば、ハリス氏も業界に寄り添うスタンスを取る公算が高いと言え、2024年の米大統領選挙はトランプ氏とハリス氏のどちらに転んでも業界にとって悪影響はないと見ている。
8月の見通し
8月のBTCドルは既に-24%ほどの下落を一時記録し、先月に下値目途と指摘した50,000ドルにワンタッチした。上述の通り、相場急落の背景には想定外に米国の景気が早く冷え込んでいる可能性が浮上したことが挙げられるが、5日に発表されたISMの7月米非製造業PMIは景気の拡大と縮小の閾値となる50を超える51.4に回復し、市場予想の51をも上回った。これを受けて5日米時間のBTCドルは反発、6日東京時間には56,000ドル周辺まで戻している。
依然としてこれから発表される経済指標次第で再び不安定な値動きとなる可能性もあるが、5日の日経平均の過去最大の下げ幅記録や、BTC取引の出来高急増から鑑みるに、この先の市場は少しずつ冷静さを取り戻していくかと指摘される。
また、Deribitのオプション市場では、5日の時点で50,000ドルストライクの建玉がやや増加したが、ボリュームゾーンは先月からほぼ変わらず60,000ドル〜75,000ドルとなっている。よって、8月のBTCドルのメインシナリオとしては、50,000ドルタッチから戻りを試す展開を想定する。5日にはBTC先物の突っ込みショートも増加し、ファンディングレート(資金調達率)がマイナスに振れる場面もあり、目先ではショートの踏み上げで60,000ドル周辺までの回復もハードルとしてはそう高くはないだろう。
一方、月初には射程圏内に入っていた高値保ち合いからのブレイクアウトの可能性は相当に低くなったと言えよう。目先では反動高で相場の揺り戻しが期待されるが、米景気後退や中東情勢を巡る懸念は解消された訳ではなく、相場の戻りが続いたとしても今月は60,000ドル台後半まで回復できれば上出来だろう。反対に相場が50,000ドルの死守に失敗すれば、年末年始に相場が揉み合っていた42,000ドルまで下げる余地があると見ている。