2021年の大相場の裏でデリバティブ指標はどのように推移していのか

デリバティブ市場動向
今年は暗号資産(仮想通貨)市場が盛り上がった年であったが、今回は大きな値動きの裏でデリバティブ市場がどのように動いていたかを紹介する。
今年前半のFRはロングが過熱したことを表している
まずはデリバティブ市場で最もポピュラーな指標の一つである、ファンディングレート(FR)を見ていこう。FRはロングポジションとショートポジションを持つトレーダーの比率によって決められる。ロングポジションの比率が多いとFRは上昇し、ショートポジションが多いと下落する。
下記チャートは今年1年のFRの推移となっている。

FRチャート、出所:Glassnodeより作成
特徴としては5月までの上昇トレンド中はFRが大きくポジティブに振れている。最も高かった時は2月17日にビットコインが5.2万ドルで推移していた時の0.13%だ。FRチャートを見てわかるように、今年前半の上昇トレンドでは、デリバティブ取引においてロングポジションが大量に積まれていたことがわかる。
大量にロングポジションが積まれた反動で、4月から5月中盤までの価格調整の値動きが激しくなった要因となっている。ビットコインは4月13日に最高値6.3万ドルを記録した後、5月23日には3.4万ドルまで下落している。価格は約1ヶ月半の間に半値近くまで下落した。
5月の下落トレンドではFRも一時-1.0%まで下落しておりロングポジションが大量に清算されたことを示唆している。上昇トレンド中にFRが大きくポジティブに振れている時は、調整の値動きも大きくなるため今後は注意したいところだ。

ロングポジション清算チャート、出所:Glassnodeより作成
FRは5月から7月中旬までマイナス傾向が続き価格は一時3.0万ドルを記録している。8月に入ると価格は再び上昇トレンドに入り、8月以降、再びFRはポジティブになっている。
9月に価格が調整局面を迎え4.1万ドルまで下落した際、FRは-0.01%を記録したが、これが押し目となり10月の最高値に繋がっている。10月の6.6万ドルを記録した際、FRは再び上昇し0.04%まで過熱した。
12月に入って以降は、価格が5万ドルを割った際にFRが一時マイナスに振れた後は0.005%付近で落ち着いている。
未決済建玉はステーブルコイン建てが上昇傾向
未決済建玉(OI)は、決済されていないロング:ショートポジションの総数の推移を表している。OIを見ることでトレーダーがどこでポジションを積んでいるかを探ることができる。
まずはステーブルコイン建てのOI推移を見ていく。

ステーブルコイン建てOIチャート、出所:Glassnodeより作成
1月から7月までのOIは、概ね12万ドルから10万ドルの間で推移しており大きな動きはなかった。前期に大きな動きが見られたビットコイン相場だったが、OIは意外なほど落ち着いていた。裏を返せば資金の流入が乏しかったとも言えるだろう。
大きな動きがなかった前期とは異なり相場が下落した7月以降からはOIが上昇に転じている。特に今年の最安値圏だった7月20日に4.4万ドル付近で推移している頃からOIが上昇している。FRを見るとこの時期はショートポジションを持つトレーダーが増えていたことがわかる。投機筋のショートが増えたことで相場は底堅くなり、その後トレンドは反転している。
OIは9月中旬に再び急落するが、価格が再度最高値圏の6.1万ドルに浮上した時はOIも上昇し18万ドルを記録している。12月に入り価格が下落したことでOIも下落し14万ドルまで下落したが、間近では再び上昇傾向に転じている。

ビットコイン建てOIチャート、出所:Glassnodeより作成
OIが上昇しているステーブルコイン建てに比べビットコイン建てのOIは減少傾向にある。今年前半の相場が活況だった時は最大26万BTCを記録したが、5月以降は右肩下がりに減少している。10月に価格が再び最高値を更新し6.7万ドルを記録した際もOIは戻らっておらず、15万BTC程度で推移していた。
12月に価格が下落トレンドに入るとOIはさらに減少しており現在は12万BTC程度で推移している。最近の価格以外のトレンドとして浮かび上がっているのが、取引所が保有するBTCの数量が枯渇していることだ。この現象がデリバティブ取引所でも同様に見られる。

取引所の保有ビットコイン数量チャート、出所:Glassnodeより作成
今年前半の相場の過熱感は3ヶ月先の先物取引価格からも読める
最後に紹介するのは、3ヶ月先の先物取引価格と現物価格の乖離率を年次換算した指標(3M)だ。先物は基本的に現物価格より高値で取引されており、市場参加者は価格の上昇を見込んで取引している。乖離率を分析することで市場の過熱感を知ることができる。

3ヶ月期先の先物価格乖離チャート、出所:Glassnodeより作成
2021年1月、ビットコインが2.9万ドル程度で推移していた際に3Mは19%を記録していたが、価格の上昇共に3Mも上昇している。4月13日、当時の最高値となる6.3万ドルを記録した際、3Mは今年の最高値45%を記録した。1年後には10万ドルを超えることが想定された先物取引価格の推移だった。
最高値を記録した後の5月以降、価格が大きく調整する相場に突入すると3Mは下落している。7月21日に今年のビットコインの最安値となる2.9万ドルを記録した際、3Mは2%台まで下落した。7月後半は市場参加者がいかに悲観的だったかが伝わる。結果としてこの価格帯が大きな押し目となり相場は反転した。
7月後半に相場が反転し上昇トレンドが再開すると3Mも再度上昇している。一方、11月に6.7万ドルを記録し最高値を更新した際、3Mは18%まで上昇しているが4月ほどの過熱感はなかった。
12月に価格が下落したため3Mも下落し現在は9%ほどで推移している。今年の3Mの傾向として、10%以下は相場に過熱感がない状態を示している。特に7月に5%を割り込んだ時は相場は悲観的だったため大きな買い場となった。
まとめ
デリバティブ市場は全体的に今年の前半は投機的な動きになっていた。FRや3Mが上昇しており多くのトレーダーがロングポジションを持っていたことがわかる。一方、ロングに偏ったことが影響し、下落トレンド時にロングポジションの決済が集中し下落が加速する要因となった。ビットコインは今年4月の高値から7月の安値まで50%以上下落している。12月現在は、FRと3M共に落ち着いており投機的な過熱感は少ない。
OIではステーブルコイン建てが1年を通して上昇しており、市場に新規の資金が流入していることがわかる。一方、ビットコイン建てOIは減少しており取引所からビットコインが流出している。