BTCは混乱の中反発 逃避資金がETF経由で流入か:5月のBTC相場

8万ドル割れから反発
4月のビットコイン(BTC)ドルは8万2560ドルから取引が始まった。トランプ米政権による相互関税の発表を控え、譲歩案の可否を巡り情報が錯綜する中、BTCは1日から8万5000ドルを試す展開となり、2日には一時8万8000ドル台に乗せた。一方、3日未明に相互関税の詳細が発表されると、貿易相手国に一律10%の関税を課すことに加え、各国との貿易収支を加味して上乗せ関税を賦課するという想定以上に厳しい措置となったことで、BTCは上げ幅を吐き出した。
週末6日には、週明けの米国市場でブラックマンデー級のクラッシュが起きることが懸念され、BTCは8万ドルを割り込み、7日東京時間には一時7万4000ドル台まで安値を広げた。
一方、この日はEUがトランプ関税を巡って工業製品の関税を双方で撤廃する交渉案を提案したことで、海外時間からは買い戻しが入った。また、9日米国時間には、トランプ政権が相互関税の上乗せ分を中国を除いて90日間停止すると発表したことで、BTCは8万ドルを回復。更に、3月の米消費者物価指数(CPI)と卸売物価指数(PPI)の伸び鈍化を味方につけ、相場は8万ドル中盤まで水準を戻した。
一方、4月中旬のBTCは手掛かり不足となる中、一目均衡表の雲下限付近で揉み合いとなり動意に欠ける展開が続いた。
しかし、21日朝方にトランプ大統領が利下げに慎重姿勢を示すパウエル議長の解任を仄めかす発言をすると、米連邦準備理事会(FRB)の独立性を懸念してドル売りが急加速。これを受けてBTCは8万ドル台後半に浮上すると、翌22日には、ベッセント米財務長官が米中貿易摩擦が緩和することを示唆し、相場は9万ドルを回復した。
その後の相場ははっきりと方向感を示せずにいるが、底堅い推移が続き、月足終値は9万4210ドルと月次では14.11%の上昇となり、月足は3カ月ぶりの陽線となった。

米株より底堅く推移
幸先の悪いスタートを切った4月のBTCだったが、中国を除いて相互関税の上乗せ分は90日間延期され、リスクオフムードが巻き戻した。トランプ氏の真の狙いは定かではないが、やはり「異常な関税を叩きつけて相手国を交渉のテーブルに誘い出す」という形になっている。ソーラーパネルや一部電子機器など、セクターを絞ったトランプ関税が依然として残っているが、先月も指摘の通り、相互関税の発表を通過したことで「最悪のタイミングは過ぎ去った」印象もある。
また、4月のBTC相場は米国株相場と比較して気になる動きがあった。通常、BTCのボラティリティはナスダック総合よりも高いが、4月は中期30日物のヒストリカル・ボラティリティ(HV)がナスダックのそれを下回った。BTCのHVがナスダックを下回ることは2019年まで遡っても数回しかなく、珍しい減少と言える。
実際、ナスダック総合の3月終値から4月安値の下落率は-14.54%だったのに対して、BTCの4月安値までの下落率は-9.83%と控えめだった。また、4月安値からの上昇率は、30日時点でナスダック総合が+18.01%だったのに対してBTCは+26.55%となっており、4月を通してBTCの方が底堅い推移となっていた。

21日の急速なドル安を契機に上値を追う展開となり、米国の現物ビットコインETFへの資金流も加速したBTCだが、2月末の時点で資金純流出のピークを迎えており、一部の機関投資家によって売りの大半はこなしていた可能性が指摘される(第3図)。
4月にBTC相場が8万ドルを割ったタイミングではETFフローは純流出となっていたが、流出額としてはピーク時の5分の1程度だ。また、このタイミングでブラックロックのIBITの出来高が増加していたことから、売り買いの両サイドで需要があったと言え、一部の機関投資家の資金が入ってきていた可能性も指摘される。
4月の前半は金(ゴールド)価格の上昇についていけなかったBTCだが、トランプ関税によって世界経済の先行き不透明感が強まる中、デジタルゴールドとして一定の需要があったと言えよう。

ATH更新はまだ先か?
不確実性が強い中で反発したBTCだが、5月もこのまま強地合いが継続するかは微妙なところだ。4月に発表された一連の米インフレ指標は物価上昇率の鎮静化を示したが、これからは4月7日に発動された一律相互関税の影響を見極める必要があり、FRBが5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げを再開する公算は極めて低いとみている。
一方、4月30日に発表された第一・四半期の米GDP成長率速報値は-0.3%と3年ぶりにマイナス成長となった。四半期次ではPCEデフレーターの伸びが加速したが、3月は前年比で伸びが鈍化しており、前回のFOMC会合の際と比較してFRBの政策調整余地は広がったとみている。これまで慎重姿勢を維持してきたパウエルFRB議長だが、景気後退の可能性が強まる中、頑なに慎重姿勢を保つ余裕もなくなってきているとみている。
また、可能性としては低いかもしれないが、5月のFOMCでFRBが利下げを見送った場合、トランプ大統領が再びFRB批判を展開する可能性もゼロではないと言え、FRBの独立性が脅かされればBTC相場には追い風となろう。
他方、一律相互関税の影響で物価上昇率が再度加速する可能性にも注意が必要だ。前月にも指摘の通り、関税によるインフレ再燃は一時的とみているが、一律関税は3月までに発動された措置よりも広範な国や製品に賦課されることから、物価上昇の加速は避けられないか。FRBはインフレ鎮静化の確証がなければ利下げの再開にはなかなか踏み込めないと指摘され、5月に発表される4月分の米インフレ指標はBTC相場にとって重石となる公算が高いか。
よって、5月のBTC相場は、想定されるFRBの姿勢軟化により目先は戻りを試す展開が見込まれる一方、その後は一律相互関税による一時的なインフレの再燃が重石となる可能性があり、調整局面入りが視野に入る。
