BTCは想定以上の上昇ペース この先リスクはないのか?:3月のBTC相場
想定外に上昇:ETFフローが追い風に
2月のビットコイン(BTC))対ドル相場は上値を追う展開を繰り広げ、42,000ドル周辺から65,000近辺まで上昇し、2021年11月に付けた史上最高値の69,000ドルを射程圏内に入れた。
1月末の米連邦公開市場委員会(FOMC)で市場の早期利下げ観測が牽制され、2月のBTCドルは40,000ドル台前半での揉み合いで取引を始めたが、7日にはイーサリアムのHoleskyテストネットでデンクンアップグレードの最終テスト実装が完了されると、イーサ(ETH)相場の上昇に連れ高でBTCも徐々に戻りを試す展開となった。さらに、7日からは米国の現物ビットコETFへの資金フローが増加し始め、相場は45,000ドルを突破すると、14日には前日の純流入額が6.3億ドルと過去最高を記録し、BTCは2021年12月ぶりに50,000ドル台を回復した。
その後、相場は52,000ドル近辺で失速するも、底堅い値動きが続くと、週明け26日にブラックロックのビットコインETF(IBIT)の商いが寄付きから盛んとなったことを好感し、BTC相場は上昇。翌日にはこの日のETFへの純流入額が再び急増したことも材料視され、相場は55,000ドルを突破すると、翌29日にはショートカバーを巻き込んで一時は65,000ドル近辺まで上値を伸ばした。
ETF需要を甘くみてはいけない
先月の見通しでは、2月のBTC相場は強いトラックレコードと半減期に向けた織り込みで「下値は堅い」一方、米連邦準備理事会(FRB)による「利下げ開始のタイミングを見極める期間が続く」ことで、浅く押し目を形成するかと指摘していたが、米国の現物ビットコインETFの商いとファンドへの資金の流入が急加速したことで、相場は押し目を作ることなく上値を追っていく格好となった。
現在米国で取引されている10件の現物ビットコインETFの運用資産残高(AUM)は、1月末時点で278億ドルだったが、2月末には482億ドルまで増加した。中でも、ブラックロックのIBITとフィデリティのFBTCは、取引開始後1カ月での歴代ETFの資金流入ランキングでトップ1、2となるなど、未曾有のペースで資金が集まっている。ETFのローンチ直後は、グレイスケールのGBTCからの資金流出が目立っていたが、2月でネットフローが純流出となったのはたった1営業日だけだった(第2図)。
2月のタイミングでETFへのフローが改善した背景は明確ではないが、GBTCからの資金流出が1月後半にかけて減速していったことも一因として挙げられるか。また、当初の当方の想定では、ビットコインが半減期を通過し、FRBが利下げを開始した後にETFへの需要が増加すると見ていたが、昨年のETF期待の先取りのように、一部の投資家はこれらのイベントを先取りしている可能性もあるか。
そうなると、FRBの利下げ後にどれだけ需要が残っているかも気になるところだが、500億ドル弱のAUMは米株ETF市場規模(5.6兆ドル)の1%にも満たない水準であり、伸び代はまだまだ残されていると指摘される。また、現物ビットコインETFを上場させたビットワイズのマット・ホウガン最高投資責任者(CIO)は、2月29日に行われたCNBCとのインタビューで、「足元のETF需要は主に個人投資家、ヘッジファンド、独立系ファイナンシャル・アドバイザーから」と話しており、ウォール街の大手証券会社が参入すれば、「より大きな波がやってくる」とも言及した。
つまり、米国の現物ビットコインETFは依然としてその本領を発揮していないと指摘され、この先もその需要を過小評価することはできないと言えよう。
もはやリスクはないのか?
2月はETFへの日次資金流入額がマイニングで1日に採掘されるBTCの総額(900BTC=5866万ドル)を超えるペースが続いた。先月は米国のインフレ指標や雇用指標が上振れ、米国債利回りが上昇したが、こうした需給の改善が相場の下支えとなり、BTCは金利高の影響をほぼ受けなかった。加えて、先月まで懸念事項として指摘していたFF金利先物市場の早期利下げの過度な織り込みは幾分後退し、3月4日時点では年末着地予想が1月末時点から1%ポイント引き上がり、FOMCの金利見通しに大分近づいた(第3図)。これにより、3月、5月の利下げ見送りも市場にとってはサプライズではなくなり、やっとFOMCとの見通しの擦り合わせが進んだこととなる。
また、3月13日にはイーサリアムの大型アップグレードのデンクンが控えており、当日までETH相場の上昇も期待され、BTC相場の上昇を牽引する可能性もあろう。
ただ、3月も懸念材料がない訳ではない。1月にNYコミュニティバンコープ(NYCB)が大赤字と減配を発表したことで、同社の株価は1月31日に37.67%も急落した。NYCBの経営難は米国の商業不動産ローンの焦げ付きが主因となっているが、現状ではその影響はNYCBに限定されている。ただ、2023年第四・四半期分の決算シーズンが一段落し、他の地方銀行の業績を見渡すと、全体として収益が前期比で低下している訳ではないが、一年前と比較すると収益の低下が目立っている。商業用不動産企業への貸し出しは、こうした地方の小規模〜中堅の銀行が全米の約80%を担っていると言われ、資産100億ドル以下の銀行では、商業用不動産がポートフォリオの38%を占めると言われており、ローンの焦げ付きが経営を圧迫していることは容易に想像できる。
こうした中、2月23日に公表された2023年第四・四半期の米商業用不動産ローンの不履行率は、コロナショック後の1.13%を超え、1.17%まで上昇しており、トレンドとしては状況が悪化し得ることを示している(第4図)。加えて、昨年3月のシリコンバレー・バンクを含む3行の銀行連鎖破綻を受けてFRBが開始した緊急流動性供給措置であるバンク・ターム・ファンディング・プログラム(BTFP)は1月24日に予定通り3月11日に終了すると発表されたと同時に、金利を50ベーシスポイントほど引き上げた。
BTFPの金利が引き上げられた背景には、日銀当座預金に当たるFRBのリザーブ・バランスの金利より低かったBTFPを利用した、金融機関による金利アービトラージが行われていたこともあるが、これによって実際にBTFPを必要としていた銀行にとっては梯子を外されたこととなる。こうした銀行にとっては収益悪化と資金調達コストの増加という負のスパイラルが起きていると指摘され、市場にとっては潜在的なリスクと言えよう。
勿論、再び銀行ショックが起きれば、FRBが新たな緊急措置を導入し、BTC価格が押し上げられる可能性があるが、ショックが顕在化し始める段階では、株式市場もモメンタムを失い下落するリスクがあり、その影響はBTC相場にも波及するだろう。
他にも、上述のイーサリアムのデンクン・アップグレードもリスクを孕んでいると言えよう。ETHはデンクンのようなトランザクションコスト削減に関わるアップグレードに向けて相場が上昇する傾向があるが、アップグレード通過後は事実確定売りに晒されやすい側面もある。
3月の見通し
BTFPの期限が11日、デンクン・アップグレードの実装が13日であることから、3月のBTC相場は前半にかけて上昇基調を保てるか。ドル建てでも史上最高値の更新に成功すれば、リテール層からの資金流入増加も期待され、更なる相場上昇が見込めるだろう。
ただ、これだけ急速に相場が上昇すると、調整局面に入った際のボラティリティも相当に激しくなりやすい点には注意したい。過去のBTC相場の上昇局面では、20%〜30%ほど調整することもざらにあった。よって、3月のBTCドルは史上最高値更新を視野に入れつつ、上下に大きく振れる展開が想定される。
なお、年初時点での2024年の見通しでは、第一・四半期の想定レンジ上限が60,000ドルだったが、既に相場が同水準を超えていることから見通しに修正を加え、3月は48,000ドル〜80,000ドルを想定する。また、ETFへの継続的な需要を考慮して、第二・四半期は35,000ドル〜70,000ドルから48,000ドル〜90,000ドルに上方修正。第三、第四・四半期は上限をそれぞれ100,000ドルと120,000ドルに据え置くが、下限をそれぞれ38,000ドルから50,000ドル、50,000ドルから60,000ドルに引き上げる(第6、7図)。