2024年のビットコイン見通し 本格的な強気相場はいつからか?
2023年のレビュー:クリプトの冬脱却
2022年のFTXショックを受けて一時は15,000ドル近辺まで下落していたビットコイン(BTC)の対ドルだったが、2023年には155.08%と大幅に上昇し、「クリプトの冬」から脱却した。
2022年下半期のBTCドルは、FTXショックの前後で低ボラティリティ相場に陥り、方向感に欠ける展開が続いていたが、2023年は16,547.85ドルで寄り付くと、上半期には米証券取引委員会(SEC)による暗号資産(仮想通貨)業界の取り締まりが強化される中、①米インフレ指数の伸び鈍化に伴う米連邦準備理事会(FRB)の利上げペース減速期待、②ビットコイン版非代替性トークン(NFT)の台頭による少額BTC保有アドレスの増加、③米中堅銀行の連鎖破綻を受けた米国債利回りの急低下などが相場の支援材料となり、4月には一時的に30,000ドルを回復した。
その後、4月から6月中旬に掛けてはビットコインの手数料急騰や、SECによるバイナンスとコインベースの提訴を受けて上値の重い展開が続いたが、資産運用大手のブラックロックが現物ビットコイン上場投資信託(ETF)をSECに申請し、BTCドルは20,000ドル中盤から32,000ドル近辺まで反発した。
ブラックロックの後を追うようにフィデリティやインベスコといったTradFiが次々に現物ビットコインETFをSECに申請したが、BTC相場はバイナンスのレイオフ発表を受けて32,000ドルの上抜けに苦戦していると、8月には中国恒大集団が米NYで破産申請をしたことで米株式市場の下落がBTC相場の重しとなった他、7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨で追加利上げの可能性が示唆されたことで25,000ドル付近まで下落した。
9月には20,000ドル台後半でBTCドルは底堅い値動きとなったが、10月には、①ギャラクシーが現物ビットコインETFを否認されたことでSECを相手に起こした裁判で、敗訴したSECが上告を見送りETFの再審査が濃厚となったことや、②米国版ほふりに当たるDTCCにブラックロックの現物ビットコインETFのティッカーが掲載されていることが発覚したこと、③さらにはブラックロックがETFのシーディングをSECへの提出書類で報告したことで、ETFの早期承認期待が台頭し、相場は30,000ドル台中盤まで戻した。その後も、ブルームバーグのアナリストらが11月中にもSECがETFを承認する可能性があると指摘したことや、SECがハッシュデックスとフランクリンテンプルトンのETFの審査判断を1カ月ほど前倒しにしたことで、市場の期待感はさらに加速し、11月末のBTCドルは38,000ドルの上抜けを窺う展開となった。
こうした中、12月に入るとFRBのパウエル議長が追加的な金融政策の引き締めに慎重な姿勢を示したことで、米国債利回りの低下に拍車が掛かり、BTCドルは保ち合い上抜けに成功。これにより相場はおよそ1年7カ月ぶりに40,000ドルの回復に成功した。その後は12月のFOMCを控え警戒ムードが広がる場面もあったが、FOMCの経済見通しで2024年の金利見通しが引き下がったことや、アルトコイン相場の上昇がBTC相場の支えとなり、2023年は42,225.16ドルで引けた。
誰がBTCを買っていた?
年末年始に掛けては、SECに現物ビットコインETFを申請する一部の運用会社がETFの指定参加者を指名したとの報道や、各社が最終的な申請の修正書類をSECに提出したことや、手数料を公表したことなどを受けて、BTCドルは一時47,000ドルを回復。1月10日にはSECが11件全ての現物ビットコインETFを承認した。
2023年のBTC相場を振り返ると現物ビットコインETFに関する情報で相場が支えられることが多々あったことがわかる。特に夏季にかけての米市場では、株価が調整局面となり米債利回りは急ピッチで上昇しており、リスクアセットであり金利を生まないコモディティであるBTCにとっては不利な外部環境となっていたが、BTCは底堅い推移となっており、ETFへの期待感がBTC相場を独自の動きに導いたと言える。実際、2022年まで強かったBTCとナスダック、金(ゴールド)の相関、米債利回りとドル指数との逆相関は、2023年を通して弱まる傾向となり、BTCは無相関アセットとなっていた(第2図)。
2022年の度重なる業界の不祥事を受けて冷え込んでいた仮想通貨市場だが、2023年はETFへの期待感から意外にも早く投資家が市場に戻ってきた格好だ。
ただ、戻ってきたのはさらに意外にも一般のリテール層ではなく機関投資家達だった。リテール層の活発さの指針となるビットコインの短期保有アドレス数は、2022年末に過去最低水準まで低下すると、2023年は回復することなく横ばいでの推移が続いている(第3図)。その一方で、機関投資家が主役となるシカゴマーケンタイル取引所(CME)では、BTC先物の建玉(OI)が6月には過去最高枚数を記録し、年末に掛けても記録的な上昇を見せた(第4図)。この他、デリビットのオプション市場でもBTCオプションの建玉が過去最高額を更新しており、2023年BTCは機関投資家が主導する市場だったとも言える。
なぜこのタイミングで仕込まれたのか?
機関投資家達のビットコインに対する関心がこれほど早くに回復した背景には幾つかの理由が推測される。
一つ目はビットコインのサイクル的な観点からみた相場の底入れだ。2022年が終わる時点でBTCは前回の半減期後に記録した史上最高値(ATH)から360日以上が経過しており、前回の半減期サイクルから鑑みれば相場が大底を形成し、次の半減期の織り込みが始まるタイミングであった(第5図)。またオンチェーン的にも、2022年末に含み益を抱え流通するBTCの割合は売られ過ぎとされる50%を割っており、過去の傾向から言えば売り手が不在となっている状況だったと言える(第6図)。
つまり、2023年が始まる時点でビットコインの半減期サイクル的には底値で仕込む絶好のタイミングであった。
二つ目はFRBによる米国の金融政策動向だ。2022年12月の時点でFRBは利上げペースを75ベーシスポイント(bp)から50bpに減速し始めていた(第7図)。それに加えて米国ではインフレの継続的な鈍化傾向が確認され、2月には利上げ幅が25bpへとさらに引き下がり、下半期に入る頃には利上げ停止が視野に入っていた。その後、FRBは7月の25bp利上げを最後に9月、11月、12月と3会合連続で政策金利の据え置きを決定。その過程で市場の注目は2024年の利下げ開始タイミングへと移り、11月当初では5月の利下げ開始が大多数の予想だったのが、2023年末には3月の利下げ開始が大多数の予想となった。
奇しくも、これまでビットコインの半減期と主要国の金融緩和はタイミングよく重なってた過去があり、今年も4月に予定される半減期とFRBの利下げ開始がほぼ同時期に起こる可能性がある。もちろん、利下げに関してはインフレ鈍化ペースの進捗から鑑みて依然として3月より後になる可能性が高いと指摘されるが、米経済の減速ペースから鑑みるに、遅くても夏には利下げが始まる可能性が高いだろう。
要するに、2024年は半減期によるビットコインのサプライ・クランチ(供給減速)とFRBの利下げ開始による需要増加が見込まれることとなり、強気相場が期待できるという訳だ。
最後に三つ目は、やはりSECによる現物ビットコインETFの承認期待だ。これまで米国で上場した差金決済の先物ビットコインを原資産としたETFと異なり、ビットコインの現物が関与するETFは、BTCの市場価格への影響力がある。上述の「半減期」と「FRBの利下げ開始」が実現した環境で現物ビットコインETFが取引を開始していれば、ETFの需要も見込まれ、結果的にBTCへの資金流入もこれまで以上に円滑化することが期待できる。
こうした「現物ビットコインETF」、「半減期」、「FRBの利下げ」という3つの好材料が待ち構える2024年を前に、機関投資家らは先回りしていたと推測される。
2024年の見通し
前章で2024年の好材料について散々話したが、BTCの本格的な強気相場は下半期からと想定している。というのも、前述の3つの好材料は、全てが揃って初めて本領を発揮すると言えるからだ。1月10日には現物ビットコインETFが米国でついに承認されたが、それ自体は相場に織り込まれており、ここから肝心となるのはビットコインに対する投資需要だ。これは半減期に対しても言えることで、毎度半減期の織り込みで相場が半減期に向けて上昇してきているが、半減期の通過直後もその勢いが続く訳ではない。
そこで鍵となるのがFRBによる利下げなのだが、前述の通り利下げが始まるタイミングは第一・四半期以降になる公算が高く、市場もしばらくはそのタイミングを見計らう期間が必要だと予想している。
また、2024年のビットコインはリスクファクターがない訳ではない。年末商戦を通過した米国の景気の行方や、FTXショックを端に発する米国での仮想通貨規制強化など、依然として不透明要素は存在する。前者に関しては、景気減速による利下げの前倒しが期待できる一方で、想定以上に早いペースで景気が減速した場合、ハードランディングのリスクが浮上することとなり、リスクオフシナリオと捉えている。後者に関しては、長期的な相場の流れを変えるリスクではないと見ているが、2023年はバイナンスという業界の巨人が規制の的となったことで、次のターゲットとしてテザーに規制のメスが入る可能性が危惧される。テザーは仮想通貨市場の流動性を支えるドルテザー(USDT)の発行体であり、その存続が脅かされれば市場への影響は大きいだろう。
以上を元に2024年のBTCドルの四半期毎の想定レンジを示したのが第8図となる。4月の半減期やFRBによる利下げが6月に始まる可能性も加味して、上半期もある程度のアップサイドは想定しているが、やはり本格的な相場上昇は下半期と見ており、史上最高値(ATH)の更新は早くて第三・四半期中が現実的か。また、BTC相場がATHを試す展開となれば、新規や出戻りのリテール層の参入が期待され、第四・四半期には心理的節目の100,000ドルが視野に入ってくると想定している。