トランプ就任も今一つの市況 手掛かり不足で方向感欠くか:2月のBTC相場
トランプ就任したが、、、
1月のビットコイン(BTC)ドルは9万3430ドルから取引が始まった。初旬は薄商いながらも、コインベースプレミアムの低下に伴う割安感や、スイスで戦略的ビットコイン備蓄創設が提案されたことを受けて締まる地合いとなり、6日にはトランプ期待も相場上昇の後押しとなり、10万ドルを回復した。
一方、7日に発表された全米供給管理協会(ISM)の12月非製造業購買担当者景気指数と11月のJOLTs求人件数が共に上振れると、米金利の上昇がBTC相場の重石となり、それまでの上げ幅を縮小。更に8日には、米司法省が6万9370BTCの売却許可を米裁判所から得たと報じられ、売り圧力懸念から相場は9万ドル近辺まで水準を下げた。
その後は9万ドル台中盤での揉み合いが続いたが、14日の米卸売物価指数(PPI)が前年比で市場予想を下回り、15日の米消費者物価のコア指数(コアCPI)が前年比で減速したこと受けて、BTCは10万ドルを回復した。また、その週末にはトランプ氏主催の「クリプトパーティー」が開かれ、トランプ新政権への期待感からBTCは10万6000ドルに肉薄した。
週明け20日の東京時間には、トランプ氏の就任式が迫る中、BTCは急騰し10万8899ドルの史上最高値を記録したが、就任式では暗号資産(仮想通貨)への言及や大統領令の署名はなく、失望感から上げ幅を吐き出した。就任4日目の23日にやっと仮想通貨に関する大統領令がトランプ氏によって署名されたが、内容は規制緩和やデジタル資産備蓄の検討にとどまり、相場の反応は今一つだった。
それでも10万ドル台で底堅く推移していたBTCだったが、27日には中国製の割安AIアプリ、ディープシークR1が米iOSアプリストアのAIアプリランキングで首位に立ったことで、ナスダック先物が急落を演じ、BTCも連れて下値を模索する展開となった。
これにより相場は一時10万ドルを下回るも、米株が下げ止まると9万8000ドル近辺で押し目買いが入り、終値ベースでは10万ドルを維持した。また、29日に最終日を迎えた米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が記者から仮想通貨のリスクについて訊かれた際に、「銀行は仮想通貨の顧客にサービスを提供することができる」、「我々はアンチ・イノベーションではない」などと発言したことを受けて、相場は再び強含み、翌30日には10万5000ドルを回復した。
31日、この日は米国時間に10万6000ドルにタッチしたが、トランプ氏がカナダとメキシコに対する関税延期の報道を否定したことで、BTCは米株式市場の下落に連れて反落。1月の月足は10万2378ドルと大台を維持したが、2月2日にはトランプ氏がカナダとメキシコに対して25%、そして中国に対して10%の関税を4日から課す大統領令に署名。これに対してカナダとメキシコが報復関税を検討すると発表したことで、週末にも関わらずリスクオフムードが広がり、BTCは一時10万ドルを割り込んだ。
貿易戦争は一旦回避
トランプ大統領の就任式で仮想通貨に関する規制緩和や戦略的備蓄の大統領令が発令されるとの期待感があったが、実際は即時改革に繋がる材料はなく、市場は肩透かしを食らった格好だ。それでも就任式20日の週にBTC相場が崩れることはなく、底堅い推移を維持し、ディープシーク台頭によるプチショックもこなしたと思いきや、月末から貿易戦争への懸念が台頭し、2月に入るとBTCは高値レンジ下限(第2図内ピンク線)を試す展開となった。
トランプ氏が再選した時点で関税強化は分かり切っていたことと言え、今更驚く事かとも思うが、市場はトランプ氏が関税政策を濫用しないと楽観していた格好か。ただ、不幸中の幸いなのは、今の所、中国は世界貿易機関(WTO)に提訴する方針を発表しただけで、報復関税を課す意向を示していない。また、関税が適用される前日の2月3日にはカナダとメキシコの双方が米国との国境警備を強化することを条件に関税適用を1カ月延期で合意し、リスクオフムードが一気に巻き戻った。
メキシコの輸出は2022年国内総生産(GDP)の43.35%で、輸出先の84%が米国、カナダでは輸出がGDPの34%を占めており、そのうち76%が米国への輸出となっており、双方とも対米輸出への依存度は高い。一方、米国の対カナダと対メキシコ輸出は合算しても34%程度となっており、輸出全体のGDP比も2023年で11%程度となっていることから、明らかに米国の方が貿易戦争で有利と言える。ちなみに、中国の輸出はGDP比で19%ほどとなっており、対米輸出はそのうちの15%程度だ。
トランプ氏の関税発表からカナダとメキシコは報復関税の準備を始め、両国首相は電話会談で二国間の関係強化を確かめたが、これはパフォーマンスに過ぎなかった。関税の応酬が続けばより大きな経済的ダメージを受けるのは明確にカナダとメキシコと言え、今回は強硬ながらもトランプ氏の手腕が光った格好だ。
ただ、トランプ氏は関税の撤廃条件を明かしておらず、カナダとメキシコに対しては経済的優位性から関税カードをこの先も振り翳し、米国側の要求を引き出してくることが予想される。
材料出尽くし感?
昨年11月のトランプ氏の再選から1月20日の就任式を経て、BTC相場は50%超の上昇を記録した訳だが、就任式を通過して、一通り大統領令の署名も落ち着き、材料の出尽くし感は否めない。2月3日には、トランプ氏は政府系ファンド設立の大統領令に署名し、親仮想通貨派のルトニック商務長官とべセント財務長官をファンド創設に起用した。将来的に同ファンドでの仮想通貨投資の可能性も期待されるが、今の所何も約束されてはいない。
トランプ氏の就任からスピード感を持って仮想通貨関連の改革が始まるとの期待感があった訳だが、実質的な改革は米証券取引委員会(SEC)の会計ルールSAB121が撤廃されたことくらいと言えよう。
勿論、更なる規制の緩和や戦略的な仮想通貨の備蓄といった話が白紙となったわけではなく、この先のトランプ政権の動きには依然として期待感を持っていて良いと指摘されるが、タイムラインが読みにくくなったことは否定できない。
把握できている範囲では、先月の仮想通貨大統領令によって発足されたワーキング・グループが月末までに現行規制の課題を洗い出すことが命じられているが、これも「戦略的ビットコイン備蓄」ほどインパクトのある材料ではないだろう。
2月の見通し
貿易戦争を巡っては、月末にかけて再びリスクが浮上する可能性もあるが、2月はそれまで米国の経済指標が主な取引材料となりそうだ。とは言え、直近で米国のインフレは底打ち感があり、労働市場も底堅く、こうした流れが変わらなければBTC相場には重石となろう。幸い、12月のインフレ上昇を主導したエネルギー価格に関しては、1月は原油価格の上昇が落ち着いたことで伸びが少しは鈍化するか。また、労働市場に関しても、トランプ大統領就任によってプライベートセクターの雇用が減少することが見込まれる。
ただ、BTCが高値を更新していくにはFRBによる追加利下げの手掛かりが必要と指摘され、それが可能になるほどのインフレ減速を期待するのは楽観的過ぎるだろう。よって、2月の米経済指標はまちまちな内容を想定しており、BTCもはっきりと方向感を示しにくい市況になるとみている。