円安によるビットコインへの逃避は限定的? 仮想通貨取引所への入金パターンを分析

20年ぶりのドル円相場129円台と、もはやショッキングな円安水準となった4月、ビットコイン(BTC)は対円と対ドル相場でチャートに大きな歪みが発生しており、本稿執筆時点では、BTC対円の年初からのパフォーマンスは、BTC対ドルのパフォーマンスを10ポイントほど上回っています(第1図)。ここで注意したいのが、「BTCが強い」という訳ではなくて、「円が弱い」ということです。BTC対ドルを見てもわかる通り、流動性の多い言わば主戦場となるBTC対ドルは1月から横ばい推移です。また、円建てで上昇している物はドルやBTCだけではなく、ユーロやポンドも同様で、為替の円指数は2015年ぶりに80を割り込んでいます。言わば「円の一人負け」です。

2020年末にbitbankにおける投資経験者の日本円入金パターンを分析した結果、地政学リスクやマクロイベントの動向を睨んだ入金パターンがある程度確認されましたが、当時と比べ現在は、米国の金融政策がハト派からタカ派的な方針に反転しており、広範な市場でリスクオフの動きが見られる一方、欧米での物価上昇率加速を受けたインフレヘッジ需要もあり、BTCにとっては難しい局面が続いていると言えます。
そこで今回は、昨年末の「米金融引き締め開始」から、2月末の「ウクライナショック」、それから今月の「円安加速」という状況の変化の中で、日本の投資家の入金傾向にどういった変化があったか見ていきたいと思います。セオリーから鑑みると、円の価値毀損をヘッジする動きが生まれるはずですが、仮想通貨への資金流入に変化はあったでしょうか。
今回も株式とFX、もしくはそのどちらかを1年以上経験したユーザーを元に日本円の入金パターンを見ていきます(①株とFXの双方、②株のみ、③FXのみを1年以上経験したユーザーの計3グループ)。尚、入金額の実数値はお見せすることができないので、観測期間中の各グループの平均を基準に指数化したデータをお見せします。100%を超えると観測期間中の平均日次入金額よりも多い入金額があったことになります。
それでは始めに各グループの合計を見てみます。

見づらくてごめんなさい。棒グラフが入金パターンで、目盛は右側です。棒グラフの色で3つのグループに分けています(図内凡例参照)。左目盛の色はラインチャートと対応しており、オレンジがBTC対円、紫がドル円相場になっています。本稿の最後に各グループのチャートを貼っておくので、そちらも参考にしてください。
データの指数化は各グループで行っているので、第2図の入金パターンにおける平均は300%になります。
意外だったのが、昨年12月のオミクロンショック前後で入金が顕著に増加している点です。ちなみに、昨年の11月末にはパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長が、インフレが一時的でなかったことを認め、政策引き締め加速に取り掛かる可能性について言及していました。「日本円の入金=その時点での仮想通貨の買い」とは限らないので、12月15日の米連邦公開市場委員会(FOMC)での悪材料出尽くしによる相場の底入れを狙って、いつでも安値で仮想通貨を買えるように準備していたのかもしれません。
昨年12月のFOMCでは、こうしたタカ派な内容の織り込みがかなり進んでいたことから、会合後に材料出尽くし感で相場が実際に反発しましたが、年末にかけて相場は500万円割れを試す展開となり、今年の1月には400万円をも一時割り込みました。こうした相場下落の際、投資経験者からの日本円入金は増加する傾向が見れますが、12月と比べると額や持続性が低く、12月の入金額増加で資金がある程度市場に入り切った、もしくは仮想通貨離れが進んだ可能性などが指摘されます。
また、2022年からウクライナとロシアの関係が悪化したこともリスクオフ要因となっていましたが、実際にロシアがウクライナ東部で軍事作戦を実行し始めた2月24日周辺でも平均の800%〜1000%を超える入金があり、有事でビットコインやアルトコインを物色しようとする動きが確認されました。実は、相場には「遠くの戦争は買い」という格言があり、戦争が実際に開始されたことによるアク抜け感だったり、戦争によって生まれるエネルギーや物資の需要増加を見込んだ買いが入りやすいことがあります。
しかし、ドル円相場が115円に乗せ保ち合い上放れとなった3月に入ると、投資経験者からの日本円の入金水準が著しく低下します。為替動向に最も敏感と言えるFX経験者(ピンク)の入金水準は、3月も比較的に高い水準を維持しており、一時は昨年12月ぶりに平均の300%を超える入金がありましたが(第5図参照)、ドル円相場が120円台に乗せた3月後半はどのグループも比較的に入金水準が低くなっており、円安加速による仮想通貨への逃避は限定的と言えます。
ドル円相場が120ミドルに接近すると、株式投資経験者(黄緑)からの入金が増加し始めており、日経平均株価が急反落し始めた4月21日以降も、意外なことに高い水準を維持しています。ただ、これまでの傾向を鑑みると、これは円安や株安からの逃避と言うより仮想通貨が安くなったことによる押し目買い狙いの入金の可能性も高いと見ています。
また、株・FX経験者(青)の入金は3月から極端に低い水準に戻ってしまっています。前回の分析でもこのグループは相場の押し目を狙った入金が目立ちましたが、円安加速がむしろ投資意欲萎縮の引き金となっているようにも見えます。
やはり、マクロ動向や地政学リスクを切っ掛けに日本の投資家も仮想通貨への投資を行っていることが今回もわかりましたが、為替動向の影響は少なからず確認されたものの、その影響度は限定的と言えそうです。と言うのも、実数値ベースのお話をすると、株・FX経験者グループの観測期間中の平均日次入金額は他の二つグループの倍近くあるため、3月から株経験者とFX経験者の入金額増加の影響度はそれほど大きくないと言えます。


