二つの期待感で上げるビットコイン その先には何が?:12月のBTC相場

高値保ち合いから上抜け
11月のビットコイン(BTC)対ドルは35,000ドル周辺での取引で始まると、米国債入札で市場予想を上回る需要が確認されたことで利回りが低下したことや、ブルームバーグのアナリストらが「11月8日〜17日の間に米証券取引委員会(SEC)が現在申請されている現物型ビットコイン上場投資信託(ETF)を承認する可能性がある」と指摘したことで、確りとした推移となり、9日には38,000ドルにワンタッチした。
その後、高値警戒感からBTCはやや軟化するも、10月の米卸売物価指数(PPI)の伸び鈍化や、アルトコインに物色が入ったことで再び38,000ドルを試したが、SECがハッシュデックスのビットコインETFの判断を延期したことも相場の重石となり、節目の水準の上抜けに失敗した。
21日には、米国で資金洗浄規制違反などの容疑を掛けられていたバイナンスが、米司法省と司法取引を行い、約6,400億円の罰金を支払うと共にCEOのCZが容疑を認め退任を発表した。報道直後のBTC相場は上値を重くしたが、バイナンスの運営が継続される見通しから買い戻しが入り、下に往って来いを演じた。
11月下旬のBTCは目星い材料に乏しい中、38,000ドルのレジスタンを背に底堅い値動きが続いたが、12月1日に米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が追加利上げに対して慎重な姿勢を示したことで、米債利回りの低下を味方にBTCは遂に38,000ドルの上抜けに成功。すると、トレンドフォローの買いが相場を40,000ドル周辺まで押し上げると、オプション勢のヘッジによる買いとショートカバーを伴い、12月4日には42,000ドルにタッチした。この日はブラックロックとビットワイズが申請しているビットコインETFの修正書をSECに提出したことも市場のETF早期承認期待を掻き立て、翌5日の米時間には、相場は45,000ドル近辺まで上値を伸ばした。

早期利下げと早期ETF承認を織り込み過ぎ?
米国で労働市場の逼迫解消傾向や継続的なインフレ鈍化が11月に示された他、タカ派として知られるウォラーFRB理事が利下げ開始時期について言及したことにより、市場では早期利下げ開始観測が台頭している。同時に、暗号資産(仮想通貨)市場では、SECが28日にフランクリン・テンプルトンとハッシュデックスが申請する現物型ビットコインETFの審査判断を前倒しにして延期したことにより、現物型ビットコインETFの早期承認期待が10月に引き続き相場の支援材料となっている。
上記2件のETFは次回の判断期限が2024年1月1日となっていたが、SECは1カ月近く判断を前倒しにし、パブリックコメントの募集を始めた。12月1日には米連邦官報にSECの判断が登録されており、35日後の2024年1月5日にコメント募集が締め切られる。1月10日にはアークと21シェアーズが共同で申請した現物型ビットコインETF(ARK 21Shares Bitcoin ETF)の最終判断期限が控えており、それまでにSECは申請されている全ての現物型ビットコインETFのパブリックコメントの募集を終わらせることで、他の申請との審査スケジュールの足並み揃えようとしていると指摘され、コメント期限後の1月6日からARK 21Shares Bitcoin ETFの最終判断期限となる1月10日の間に全11件の現物型ビットコインETFが承認される可能性が浮上している。

FRBによる利下げとSECによるETFの承認はファンダメンタルズ的な観点ではBTCにプラスではあるが、実際のイベントが起きる前にBTC相場は相当に上げている。BTCドルの日足相対力指数(RSI)は12月5日に80%を超えており、テクニカル的には過熱感が確認される。また、BTCドルの週足は8週連騰が視野に入っており、実現すれば2017年ぶりとなる。ETF承認への期待感は、フィデリティ以外のETFでファンドのカストディアンに指定されているコインベース(COIN)の株価にも反映されており、COINは11月、73.44%と大幅上伸を演じた。
要は、現物型ビットコインETFの1月の承認は相応に相場に織り込まれていると言え、実際に承認された場合はBTC相場ではお決まりの「Sell on the Fact(事実確定売り)」が発生する可能性に注意が必要ということだ。足元のBTC相場は、2017年12月に米国で初めてBTC先物が上場したとき、2021年4月にコインベースがナスダックに上場したとき、それから同年11月に先物ビットコインETFが米国で上場したときと同様に、期待感が先行して相場が上昇しており、実際に期待するイベントが起きると材料出尽くしで売りが優勢になる可能性が高いと指摘される(第2図)。

勿論、これは実際に現物型ビットコインETFが承認された後の短期的な話であり、中長期的に相場が持ち直すかはビットコインに対する投資需要の有無が鍵を握っていると言え、来年にはFRBが利下げを開始すると想定すれば、現物型ビットコインETFの承認が長期的な相場の天井となることは避けられると見ている。
ただ、FF金利先物市場では、来年3月からの利下げが織り込まれていることに加え、来年は1年を通して1.25%ポイントの利下げにより政策金利の上限が4.25%で着地することが見込まれている(25ベーシスポイントの利下げを5回)。一方で9月FOMCの経済見通し(SEP)では、来年は現行よりも25bp高い5.75%から50bpの利下げで、5.25%での着地が会合参加者の予想の中央値となっており、市場とFRBの間で見通しに1%ポイントもの差が生まれている。

尤も、FRBは追加利上げには相当に慎重になっていると言え、12月のFOMC会合では政策金利の据え置きと共に、SEPでは金利見通しの下方修正が想定される。しかし、年間2%のインフレ目標が道半ばである現状で、FRBと市場の金利見通しの間にある1%ポイントの差が12月のSEPで解消するとは到底考え難く、市場は早期且つ急速な利下げを過剰に織り込んでいる可能性が指摘される。
確かに労働市場の減速やインフレの鈍化が確認されるものの、米国の経済活動は現状ではあくまで緩やかな減速であると言え、景気の底堅さが一時的にでもデータで示された場合は、こうした過剰な織り込みの反動で米国債利回りが急反発する可能性に注意しておきたい。
12月のビットコインはまだ上がる?
ここまでBTCのリスクファクターの話になったが、デイリーレポートでも指摘した通り、足元のBTC相場はFRBによる早期利下げとSECによる早期ETF承認期待でやや理性を失っており、目先ではもう一段の相場上昇があってもおかしくないと見ている。ただ、上述の通り、BTCの日足RSIは既に「買われ過ぎ」とされる70%を大幅に超えており、目先であと一段高となれば、相場がオーバーシュートしてトレンドが反転する恐れがある。反対に45,000の上抜けに苦戦して揉み合いが長引けば、上値の重さを嫌気した見切り売りが発生すると指摘され、いずれにせよ相場が調整に入るのは時間の問題かと指摘される。想定通りに相場が調整に入れば、シカゴマーカンタイル取引所(CME)のBTC先物相場で窓が開いている39,000ドル周辺までの下値余地は一旦視野に入れておきたい。
12月のBTCドルの見通しは、既に11月時点のメインシナリオの上限を相場が上抜けしているため、先月に続き見通しを上方修正する(第4図)。昨年3月高値周辺となる48,000ドルが目先の上値目途と見ているが、想定シナリオの上限にはややバッファーを持たせ、オプション市場で建玉が集中する50,000ドル、下限は29,000ドルから今年の7月高値付近となる32,000ドルに引き上げる。
