ビットコイン価格 3月の見通し:市場サイクル、FOMC、米長期金利に注目

先月のビットコイン価格
2月の暗号資産(仮想通貨)市場は、テスラのビットコイン購入やバンク・オブ・ニューヨーク・メロン(BNYメロン)の年内カストディ参入など、強材料が次から次へと湧き出てビットコインの時価総額は一時1兆円に到達するなど、かなりの盛り上がりを見せました。
一方、総楽観で過熱感が台頭し、出来高が低調な中で50,000ドル台(≒534万円)に乗せた相場は、58,000ドル付近から大幅に下落し、米10年債利回りの急上昇を受けたリスクオフのドル高株安も相場の向かい風となり、月末にかけては一変して上値の重い展開となりました。
これにより、2月のビットコイン対円の月足は、安値から高値が約277万円幅と大きなローソクとなった一方、高値から終値の値幅もその約半分の133万円と長い上ヒゲを付ける形となりました(第1図)。

ローソク足と市場サイクル
高値圏で長い上ヒゲが出現すると、一般的には買い余力の後退が示唆されトレンド反転のシグナルを疑いたくなりますが、1月に関しては実態(始値から終値)より長い上ヒゲが過去最高値圏で出たにも関わらず、2月の相場は大幅続伸となりました。
ただ一方で、ビットコインの相場には季節的なサイクルがあり、価格が上昇しやすかった先月に比べ、今月3月は2012年から数えて3勝6敗と価格が一ヶ月ベースで下がりやすい月となっており(第1表)、そろそろ上昇トレンドに「休憩期間」が訪れてもよい頃合いとも言えます。
また、3月を乗り越えると今度は反対に価格が上がりやすいというアノマリーのある第二・四半期の市場サイクルに突入するので、3月はそれに向けてエネルギーを温存するというのがシナリオとしては綺麗な落としどころとも言えます。

今月のFOMCの焦点
今月は米国の中央銀行にあたる連邦準備理事会(FRB)の政策会合、連邦公開市場委員会(FOMC)会合が予定されております(16日〜17日、記者会見は18日午前3:30から)。フェド・ウォッチを見てもわかりますが、政策金利(FFR)の誘導目標は0.00%〜0.25%の据え置きが予想されます。ただ、一つ注目なのが、今回の会合では経済見通し(Economic Projection)も発表され、その中で当局者が2023年までの各年とさらに長期的な政策金利の見通しを示す「ドット・プロット」も更新される点です。
前回はの経済見通しは12月に発表されたのですが、その際は前々回9月から2023年末に利上げを見込むメンバーが一人だけ増えていました。勿論、中央値や平均値を取れば依然として実質ゼロ金利政策が当面の間継続されることが予想され、前回は市場への影響も特段ありませんでしたが、向こう数年の当局者の政策金利見通しが前回と比較してハト派(緩和的)かタカ派(引き締め)により傾斜するか、或いは変化なしかに注目です。

尤も、このところ当局者から相次いで物価と雇用の目標に関して現状は程遠いとの発言があり、パウエルFRB議長も物価目標達成まで3年かかる可能性も示唆しているので、ドット・プロットに限らず全体的に据え置き、或いはハト派的な姿勢が示される可能性が大きいでしょう。
また、今年に入ってから市場でテーパリング懸念が台頭してきている中で、先月末には米10年債利回り(長期金利)の上昇を受けて株式市場のボラティリティが上昇していることもあり、海外では「Tantrum without the Taper」と「テーパリングなくしても市場が荒れている」と言われており、FRBは市場のテーパリング懸念を払拭しこの混乱を落ち着かせたいと考えている筈です。よって、今回のFOMCでは政策は据え置く一方で、ドット・プロットやフォワードガイダンスを用いて、これまで以上に強いトーンで「現行の金融政策にコミットする」というメッセージを送るのではないかと予想されます。
米長期金利上昇とインフレ加速懸念で綱引き
さて、上記でも触れた米長期金利の上昇によるリスクオフムードの台頭ですが、こちらは3月のビットコイン相場を見通す上で最も不透明感が強い要素と言えます。長期金利の上昇でインカムゲイン(利息による収益)の魅力が増し、米ドルへ資金が向かいやすくなる一方で、経済指標が2月に上向きだしたことでインフレ加速懸念も市場で醸成されつつあります。これは、言い換えると、リスクアセットに向かうマネーフローが減退する一方、インフレヘッジの需要も出てくるので、リスクアセットでありデフレ型のビットコインにとっては一種の「綱引き状態」と見ています。
ただ、今のところビットコイン相場はこうした状況でも底堅く推移しており、ドルインデックス(DXY)が1月に底打ちとなってから中期的な逆相関関係が完全に崩れる形となっています(第3図)。つまり、ドルインデックスの上昇とビットコイン価格の動きに連動性がないということで、一様にドル高(安)がビットコインの向かい風(追い風)になっている訳ではないと解釈できます。

これはそもそも2月はビットコインにとって強材料が連発していたということもありますが、やはり市場が織り込むインフレ率であるブレークイーブン・インフレ率が、実に7年半ぶりの高い水準まで上昇し、足元でも高止まりしていることも作用しているのではないかと指摘されます(第4図)。
また、1日付のレポートでも指摘したように、2月末のリスクオフは一時的となる可能性もあり、米国の経済回復がしっかりと指標で示されればリスクアセットへのマネーフローも回復する余地があると言えます。現状の米経済は依然として回復局面に入れるか否かの微妙な位置にあり、こうした楽観シナリオを自信を持って断定はできませんが、「長期金利が上がったことでビットコインの価格上昇が終わる」という極端な悲観シナリオは考え難いでしょう。

3月のビットコイン価格:レンジと注目ポイント
3月のビットコイン価格のレンジは、320万円〜615万円を見ています(第5図内紫帯)。下限の水準は1月後半に相場が下げ止まった水準となりますが、これは相場が1月高値の435.5万円(第5図内オレンジ線)を維持できなかった場合のかなりの悲観シナリオです。言い換えると、1月高値がトレンドの分水嶺となる公算が大きいので、この水準を相場が守れるか否かには注意が必要でしょう。
ただ、メインシナリオとしては、この1月高値をサポートに相場の値固めが続くと見ています。注目点としては、心理的節目の50,000ドル水準の534万円(第5図内青線、為替の動きで対円の水準は変動します)に乗せることができるかですが、上述の通り、3月は相場が下がりやすいというバイアスも考慮すると、同水準の上抜け定着にはFOMCやその他で何かしらの強材料が出ることが条件となりそうです。
また、2月高値周辺の615万円を月次レンジの上限と見据えるのも、市場サイクルに鑑みて高値更新は難しいということが言え、上述のように今月は「第二・四半期に向けてエネルギーを温存する」というシナリオが想定されることが背景にあります。
