一時は上値試すも買い続かず 不透明感残る5月のBTC相場

ブレイクアウト後の上げ幅維持できず
4月のビットコイン(BTC)対ドル相場は、26,500ドル〜29,000ドルのレンジから一時はブレイクアウトに成功し、31,000ドルにワンタッチしたものの、上げ幅を維持できず上に往って来いを演じた。
米国での暗号資産(仮想通貨)業界の規制取り締まり強化や、米経済の景気後退入り懸念の台頭で、BTC相場は3月下旬から2021年安値の28,800ドル周辺で上値を抑えられた一方、4月に上海(シャペラ)アップデートを控えたイーサ(ETH)や、今夏に半減期を控えるライトコイン(LTC)相場の上昇を追い風にBTCも上昇すると、ショートポジションのロスカットを伴って30,000ドル台に乗せた。
上海アップデート通過後のETHには事実確定売りが入る懸念もあったが、売りが限定的となると安心感が広がりETH相場は2,100ドルにタッチ。BTCもこれに連れ高となり31,000ドルに到達したが、米連邦準備制度理事会(FRB)のウォーラー理事が追加利上げを支持する旨の発言をしたことで失速した。
4月中旬からはアルトコインの買いも一巡し、利益確定の売りでBTCは上値を重くすると、3月の英消費者物価指数(CPI)の上振れを受けた英国債利回りの上昇に米国債利回りも追随し、BTCは28,800ドルを割り込んだ。さらに、S&Pグローバルの4月米総合購買担当者景気指数(PMI)の上振れものしかかり、相場は28,000ドルの維持に失敗し、4月前半の上げ幅を綺麗に掻き消した。
一方、3月にバンクランに見舞われた米ファースト・リパブリック・バンク(FRC)が第一・四半期に1000億ドルもの預金引き出しがあったと公表した他、500億〜1000億ドル相当の資産売却を検討していると発表すると、金融不安が想起され、BTC相場は米国債利回りの低下を追い風に28,000ドルを回復し、底堅い推移に転じた。しかし、5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)を目前に30,000ドル回復をトライするも失敗し、相場は下げ足を速めると、2021年安値を割り込んだ。
5月1日には、FRCの経営破綻を受けた米株市場のリスクオフが波及し、28,000ドル割れを試したが、FOMC声明で利上げ停止の可能性が示唆され同水準を死守。本邦の大型連休終盤には、アップルの好決算を追い風に再び30,000ドルをトライしたが、ビットコインのトークン規格BRC-20を駆使したmeme(ミーム)コイン需要が急増したことで手数料が高騰し、ネットワークが逼迫したことが嫌気され、BTCは反落。さらに、バイナンスがBTCの出金を一時停止したことも相場の重石となり、足元では21年安値を割り込み、28,000ドルを割っている。

不透明感払拭ならず?
FRBが5月2・3日に開催したFOMCでは、市場の予想通り25ベーシスポイント(bp)の利上げが決定された。声明からは、インフレを目標の2%に収めるのに「幾分の引き締めが適切かもしれないと委員会は予想する」という表現が、「どれほどの追加の引き締めが適切か見極める」と書き換えられ、見方によっては様子見の姿勢を示したとも言える。FF金利先物市場も6・7月は利上げを見送り、9月からの利下げを織り込んでおり、市場の関心は利下げのタイミングに移りつつあるようだ。
ただ、市場はやっと見えてきた利上げ停止に浮き足立っているようにも窺える。実際、声明やパウエル議長の記者会見は利上げ停止を確約する内容ではなく、あくまでこの先の経済や金融市場を注視するというもので、「利上げ停止と考えるには時期尚早」との発言も議長からあった。
加えて、米国の消費者物価指数(CPI)や個人消費支出(PCE)といったインフレ指標は、ヘッドラインでは減速が確認される一方、食品とエネルギーを除くコア指数、及び中長期的なインフレのトレンドを示すトリム平均PCEインフレ率では依然として高止まりが確認されており、著しい改善が見られるとは到底言えない状況だ(第2図)。前年同月比のヘッドラインCPIやPCEの低下は、昨年春の原油価格高騰によるベース効果の現れと言え、必ずしも正確にインフレのトレンドを示せていない。

3月の米金融不安による預金流出、それによる銀行の与信環境の悪化で結果的に需要を抑える効果が期待されると指摘したが、米供給管理協会(ISM)の製造業とサービス業PMIや小売売上高に耐久財受注など、直近の経済指標からは目立った企業及び消費活動の衰えは確認されない。尤も、米銀行の融資基準引き締めの動きは、FRBの上級銀行貸出担当者調査(SLOOS)で明らかとなっており、この先、徐々に景気のスローダウンが明らかとなる可能性もある。こうしたことも考慮して、FRBは追加の利上げを敢えて急がない可能性もあるが、インフレのコア指数の推移から鑑みるに、今後の利上げの可能性を完全に排除するのは楽観的すぎるか。いずれにせよ、5月のFOMCは金利動向の不透明感払拭に繋がっていないと言える。
BRC-20の台頭で収穫もあるか
今年1月にリリースされたオーディナルズ・プロトコルが、ビットコインの送金手数料高騰、及びネットワークの逼迫という予期せぬ副作用を引き起こし、足元のBTC相場の重石となっている。
オーディナルズは「インスプリプション」と呼ばれる手法で個々のsatoshi(BTCの最小単位)にユニークなデータを書き込み、非代替性トークン(NFT)に類似した機能を持たせるプロトコルだが、3月にはこれを利用したトークン規格のBRC(Bitcoin Request for Comment)-20が台頭した。BRC-20トークンの発行と送金にはビットコイン・ブロックチェーン上でのトランザクションが必要となり、結果として手数料が高騰し、メモリプール(mempool)も膨れ上がった。


マイナーにとっては手数料経由の収入が増えて好感される現象ではあるが、5月に入るとバイナンスが手数料高騰を背景にBTCの出庫を複数回一時停止するなど、市場に緊張感が走る場面もあった。
本来のBTC送金以外のデータでブロックを埋めることへの批判もオーディナルズが始まって以来あるものの、マイナーにとってプラスであればオーディナルズを止めることやフォークを強いることも難しいだろう。ただ、イニシャル・コイン・オファリング(ICO)やNFTでも言えることだが、暗号資産(仮想通貨)界隈は新しい物好きで飽きっぽい傾向がある。そもそも、手数料の高騰はBRC-20にも影響する訳で、特段用途のないトークンに高い手数料を支払う需要は長続きしないだろうと言える。
BRC-20トークンはいつでも簡単に発行できるという点では、今後もちょっとしたブームが再来することも想定されるが、本件によってオフチェーン取引を可能にするレイヤー2の重要性も再認識されたと言え、バイナンスや米コインベースがライトニング・ネットワーク(LN)活用を模索していることを発表している。BRC-20トークンの台頭でレイヤー1の利便性の低さが露呈したが、世界最大級の取引所2社でLNが利用可能になれば、業界としては寧ろ収穫があったと言えよう。
5月は一旦調整も視野に
5月第2週に入りBTC-20トークン熱にも徐々に陰りが見えてきたことで、手数料やメモリプールも落ち着きを見せ始めている。こうした動きが続けば、安心感からBTCも買い戻される余地もあると見ているが、やはり6月FOMCへの不透明感がこの先の相場にとって大きなハードルとなると言え、米経済指標の底堅さが続けばある程度の相場の調整も視野に入れておきたい。27,000ドル台の維持に失敗すれば、200週移動平均線が走る26,100ドルや、日足一目均衡表の雲下限と2月高値が密集する25,300ドル周辺が下値目途となりそうだ。
他方、米国の景気の堅調さが示されれば、FRBの積極利上げに伴う景気後退懸念が和らぐとも指摘され、金利の側面ではBTCに向かい風だが、米株が支えられることでBTC相場にもプラスの側面が多少あると指摘される。3月下旬から4月頭のBTC相場の膠着状態は、これとは反対に景気後退懸念による米株の軟化と利上げ停止期待による国債利回り低下が相場の綱引き状態を生んでいたと指摘され、目先では上下に働いていた力が入れ替わる可能性がある訳だ。
直近ではBTCのナスダック総合との相関の低下、国債利回りとの逆相関の強まりも考慮して、どちらかと言えば売り圧力の方が強くなる公算が高いが、相場が大きく崩れる展開は避けられるか。
