10万ドルからどこへ行く? 2025年のBTC注目トピック:2025年のBTC相場
ついに大台突破も維持できず
12月のビットコイン(BTC)ドルは9万6447ドルから取引が始まった。2日に米財務省のビットコイン・アドレスから1.9万BTCが送金されたことによる売り圧力の懸念と、3日米国時間に韓国の尹大統領が突如戒厳令を発令したことによる金融市場の混乱で、BTCは一時9万3645ドルまで水準を下げたが、韓国議会与党が戒厳令の解除法案を速やかに可決させたことにより、相場は切り返した。
翌4日には、パウエル米連邦準備理事会(FRB)議長がNYタイムズ主催のイベントで、ビットコインに関して「米ドルの競争相手ではなく、金(ゴールド)の競争相手だ」と発言したことが好感され、相場は5日東京時間に初めて10万ドルを上抜け、10万3551ドルまで上昇した。
その後は高値警戒感から利食いが入ると、ロングの投げを伴って相場は9万6000ドル台まで急落。6日の米雇用統計で失業率が上昇したことで下値は支えられるも、9日には米消費者物価指数(CPI)の発表を控え弱含み、一時は9万4383ドルまで水準を下げた。
一方、10日の米国時間には、ドナルド・トランプ(DT)次期米大統領が、ビットコイン価格を「もう一つの株式市場のようなもの」として注目していると発言。翌11日に発表された11月の米CPIは前月から伸びが加速するも、市場予想と合致し、インフレ上振れ懸念が巻き戻し、BTCは再び節目の10万ドルを回復した。その後も、米国での戦略的ビットコイン備蓄(SBR)実現への期待感から相場は上昇し、17日には10万8147ドルの史上最高値を記録した。
ただ、18日に最終日を迎えた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、市場の予想通り25bpの追加利下げが決定されたが、来年にかけてのインフレ見通しや、中立金利の指針となる長期の政策金利見通しが引き上げられた他、パウエル議長もインフレへの警戒感を示したことで、「タカ派的利下げ」と市場で受け止められ、BTCは急反落し、20日は9万2265ドルまで下値を広げた。
同日に公表された11月の米個人消費支出(PCE)価格指数は、市場予想を下回ったものの、クリスマス休暇を控えBTCは買いが続かず、その後はジリ安に推移。24日には米株式市場の「サンタクロースラリー」に牽引され、9万9315ドルまで戻したが、大台の10万ドル周辺で利食いが入り、そのまま年末まで薄商いで小緩む地合いが続いた。
31日には、スイス政府が同国中央銀行にBTCを準備金(Strategic Bitcoin Reserve、SBR)として保有させる憲法改正案を連邦官報に盛り込み、相場は反発したが、終値は9万5000ドルを維持できず、9万3460ドルとなった。
利下げ継続に不透明感
11月の米大統領選挙でトランプ氏が勝利したことによるBTCのトランプラリーは、12月のFOMCを境目に一服したと言えよう。FOMCでは追加の25bp利下げが決定された訳だが、2025年のインフレ見通しがFRBの目標に近い+2.1%から+2.5%まで引き上げられ、インフレの上振れリスクが強調された印象もあった。
BTCは「金利を生まないコモディティ」としての立ち位置をここ数年で確立してきており、金融緩和との相性は良い。ただ、9月に始まったFRBの利下げサイクルも早々にペースが緩み、FOMCの見通しでは、2025年は25bpの利下げが2回と、9月見通しの半分となった(第2図)。更に、この先の利下げの有無はインフレの進捗次第となっており、実際に利下げサイクルが続くかは至って不透明と言えよう。ただでさえ第2次トランプ政権では関税強化による輸入物価の上昇や、不法移民の大規模な送還作戦による労働コストの上昇でインフレは再度加速するとも言われており、金融政策の側面ではBTCにとって環境が悪化する可能性がある。
ただ、FF金利先物市場では1月6日時点で今年の利下げは5月の1回のみがコンセンサスとなっており、FOMCの見通しよりもタカ派的なシナリオが織り込まれている。それだけ景気やインフレの上振れリスクを予め織り込んでいるのは不幸中の幸いとも言えるが、利上げの可能性がチラつけば、BTCにとっては2022年の長期的な弱気トレンドが想起される可能性もあるだろう。
SBRが起爆剤となるか?
米国のインフレとFRBの金融政策動向は2025年のBTC相場にとってリスクとして注視するべきトピックではあるが、今年は第2次トランプ政権によるSBR創設の可能性という起爆剤も控えている。国家がBTCを保有するケースはエルサルバドルで既に実現しているが、先進国で世界最大の経済大国アメリカでも実現されれば、信頼性の向上や実需の台頭でBTCのアセットクラスとしての格は一層引き上がり、新たな資金流入の材料となり得るだろう。
また、米国でSBRが実現した場合にはその購入額やペースも注目される。シンシア・ルミス米共和党上院議員が提出した「ビットコイン法案」では5年間で年間20万BTCを購入し、最終的に総発行量の5%弱を占める100万BTCの備蓄を目指す。年間20万BTCとなると、1日あたり547.94BTC(≒85.7億円)を購入することとなる訳だが、現在BTCのマイニング報酬で採掘されるBTCは1日あたり約450BTC(≒70.4億円)しかないため、米国政府が供給量を上回るペースでBTCを購入することとなる。更に、これを2025年から5年間続けるとなると、2028年には5度目の半減期もあるため、単純計算で実需のインパクトが倍増することとなる。
勿論、ルミス上院議員のビットコイン法案が原型のまま議会を通過するのはそう簡単ではないと指摘される。先進国では初めての試みであり、規模感も現在の時価で総額15.6兆円(100万BTC)と莫大な予算をかけて国が最もボラタイルな資産の一つを備蓄するとなると、共和党内からも慎重論がでてきても全くおかしくはない。
ただ、SBRの創設はトランプ氏が公約として掲げている他、現在テキサス、ペンシルベニア、オハイオといった州でもなんらかの形で独自に提案されており、原型はとどめずともビットコイン法案に似た法案が成立する可能性は、上下両院で共和党が過半数を占める環境において低くはないだろう。
また、SBR創設自体のハードルはそう高くないと言える。米連邦政府は犯罪組織から押収した18.7万BTCを既に保有しており、トランプ氏も昨年7月に米ナッシュビルで開催されたBitcoin 2024カンファレンスでこのBTCを保有し続けることに言及していた。押収したBTCをSBRに転換するとなればコストのハードルは無いに等しく、業界内では大統領令を駆使してこれを実現させる可能性があるとの声も散見される。
他方、11月のトランプ氏再選を契機に米国以外でもSBR創設を目指す動きがあり、現在までにブラジルでは国のポートフォリオの5%をBTCに充てる提案が議会に提出され、スイスでは連邦官報に中央銀行によるBTC購入の検討が盛り込まれ、ロシアではSBRの実現可能性を財務省に評価させる提案がされ、チリではSBR創設に向けて複数議員が働きかけていると報道されている。
2021年にエルサルバドルでBTCが法定通貨に指定され、国をあげたマイニングが始動した際は、こうした他国への波及は極めて限定的だったが、米国でのSBR創設の可能性が浮上したことで、国家の財務戦略として影響は既に波及している。仮に米国が新規のBTC購入に踏み切れば、国家間のBTC備蓄競争が繰り広げられる可能性も視野に入り、BTC相場の上昇に拍車を掛けるだろう。
金利高とSBRの相性
2025年はFRBによる金融緩和ペース減速、或いは引き締めへの転換の可能性というリスクがチラつくものの、米国でのSBR創設と国家間のBTC争奪戦という強材料が共存していると言える。ただ、FRBが利下げペースを緩め、米金利が高止まりすることと、米国のSBRは必ずしも相性の悪い材料ではない。
元より、トランプ氏がSBR創設を目指す背景は財政のスリム化であり、端的に言えばコロナ禍を経て急速に膨れ上がった国の借金を圧縮することだ。また、2022年からのFRBによる利上げに伴い、公的債務の利払いが連邦政府の財政を圧迫していることも事実で、金利が高止まりし続ければ国債の格付けの引き下げや国の信用問題に発展する可能性もあるだろう。こうした問題の解決法の一つがSBRの創設となると、「財政悪化のソリューションがビットコイン」というナラティブが生み出される可能性もある。トランプ氏自身、「クリプト小切手で国の借金を返済できるかもしれない」と発言しており、こうしたナラティブができてBTCが注目され価格が上昇することを歓迎するだろう。
ただ、米国のインフレ再燃と利上げ、更にはそれらがどのタイミングで債務問題の顕在化に繋がるかは不透明であり、金利高とSBRの相性の良さが表面化するのは2025年以降の可能性も十分あるとみている。よって、2025年のFRBの政策動向には引き続き注視する必要があるだろう。
2025年上半期のビットコイン相場見通し
直近2カ月ほどで米国のインフレは加速してはいるが、中長期的なインフレの方向感の指針となるトリム平均PCEインフレ率が依然として横ばいで推移していることに鑑みるに、FRBが政策方針を転換させるまでにまだ時間があると指摘される。
2025年の第一・四半期には1月20日のトランプ大統領就任以外にも、2022年に経営破綻したFTXによる債権者への現金の弁済が既に始まっており、その額は2.2兆円〜2.5兆円と言われている。Mt.Goxの現物弁済とはことなり、FTXの弁済は現金であることから、ある程度の買い圧力が生まれることも期待される。更に、米国のSBR創設が第一・四半期中に実現すれば、他国への波及も見込まれ、相場を押し上げる材料となろう。
よって、BTCの相場上昇は2025年の上半期にかけて継続すると想定している。
また、過去の半減期サイクルを振り返っても、依然としてBTC相場の上昇トレンドの賞味期限は残っていると言える。これまでBTC相場は半減期から371日〜546日で大天井を形成してきたが、今回のサイクルは1月7日時点で262日しか経過していない(第3図)。過去のサイクルが繰り返されるとすると、今年の4月26日〜10月18日の間に大天井を形成する可能性が指摘され、上記の想定とも概ね合致する。
この先の上昇余地としては、過去の半減期からの上昇率が1/3ずつ低下していることを考慮して、今回は半減期から3倍程度が妥当なターゲットと見据えており、昨年4月の半減期時点で価格が約6万5000ドルだったことから、19万5000ドルがターゲットとなる。ただ、BTC相場は過去の経験則上、「妥当」と判断したターゲットを超えてくることも多々あり、キリの良い20万ドルを上半期中のターゲットと想定している。