半減期から1ヵ月経過 ビットコインマイニングの現状を考察
4月20日に通過した史上4度目のビットコイン(BTC)の半減期からおよそ1ヵ月半が経過した。約4年に一度の一大イベントは、これまで相場の長期上昇トレンドに先んじて起きており、今回も相場への影響が期待される。
尤も、半減期直後からBTC相場が堅調に推移することは珍しく、今回も半減期通過後には相場が上値を重くする場面が見られた。ただ、5月には米国のインフレ鈍化や米証券取引委員会(SEC)による現物イーサETFの早期承認期待によりBTC相場は復調し、足元のBTC対ドルは、5月には3月に記録した史上最高値(73,742ドル)を試す展開となった。
一方、半減期によるBTCの供給ペース半減により、マイナーのブロック報酬も当然の如く半減(6.25BTC→3.125BTC)しており、BTCマイニングの収益性は歴史上最も低くなっていると指摘される。実際、トランザクション(tx)手数料も加味した日次のマイニング報酬をハッシュレートで割った、100Ehash毎の一日の期待マイニング収益は、4月の半減期以降に10万ドル/100Ehashを下抜け、5月には史上初めて4.45万ドル/100Ehashまで低下していた。また、半減期以降、BTCマイニングの難易度(ディフィカルティ)は一度-5%超の下方調整があったが、ハッシュレートは低下基調を続けており、ハッシュレートの30日平均と60日平均をベースとした「ハッシュリボン」は5月にデッドクロスを示現、BTCマイニングの運用は厳しくなっていると指摘される。
さて、収益性の悪化が懸念されるBTCマイニングだが、半減期後のマイナーのアドレスの活動も一時は静かになったが、5月からはBTCの純流出量が徐々に増加している。マイナーのアドレスからのBTCの流出は、カストディ用のウォレットへの移動も含まれるが、取引所やOTC(店頭取引)での売却を目的とした送金も含まれ、ハッシュレートの低下と同様に市場にとっては懸念の種となり得る。
BTCマイナーアドレスのネットポジションの30日平均を見ると、昨年末から5,000BTC以上の日次純流出が常態化していたが、半減期に向けてネットポジションの30日平均はニュートラルへ戻った。しかし、5月に入ると日次のBTC純流出量は再び増加傾向となっている。半減期から30日以上経った現在でも流出量は半減期前の水準までは低下し切っていないが、足元では-4,000BTCに迫っている(第4図)。
半減期に向けてマイナーのネットポジションが傾いていた背景には、報酬の半減に向けて相場の上昇を逆手にキャッシュを確保していたからと指摘されるが、足元のBTC純流出量増加は、やはり運営の厳しさを反映しているか。
一方、マイナーが動かせるBTCの残高にもある程度限りがあるということにも注目したい。5月末時点でマイナーの総BTC残高は180.4万BTC(約19.9兆円)あったが、実はコインベーストランザクション(マイニングに成功した際にマイナーが報酬を受け取るためのトランザクション)以降に一度も動いていない不動BTC残高はその9割以上を占める177.5万BTC(約19.6兆円)もある(第5図)。勿論、マイナーの不動BTC残高は時間と共に変動し、2019年までは総BTC残高と共に長期的に低下基調となっていた。しかし、2019年からの不動BTC残高は170万BTC台後半で横ばいとなっており、相場の激しい変動とは裏腹にかなり落ち着いている。
因みに、マイナーの実働可能BTCがこれだけ圧縮され、不動BTC残高の割合が半減期前後で足元の水準まで上昇することは珍しい(第6図)。不動BTC残高が既に170万台後半で落ち着いていた2020年の半減期と比べれば、今年の状況は真逆とも言える。
ここで「売り余力を蓄えて迎えた2020年の半減期」と、「売り余力を残さずに迎えた2024年の半減期」という対比ができる訳だが、上述の通り、不動BTC残高はここ数年安定しているものの、固定されているわけではなく、現状の収益性悪化を考慮すれば、相場が復調せずにいれば不動BTCが市場に放出される可能性もあるだろう。勿論、昨年末から今年3月のように、マイナーは相場に影響を与えずBTCを市場で捌くことが可能と言えるが、2018年末の「ハッシュ闘争」や2022年の「FTXショック」で相場が急落し、マイニングの収益性が悪化した際は、マイナーのアドレスから顕著なBTCの流出が確認されており、一時的とは言え相場への影響があったと言える。
こうした中でBTC相場の中期的な見通しも不透明感が強まっている。年初時点では、米国で現物ビットコインETFが1月に承認され、4月の半減期で供給が絞られ、6月〜7月には米連邦準備理事会(FRB)が利下げに着手、ETFが投資マネーの受け皿となり、相場は強含むというシナリオを描いていたが、FRBの利下げ開始時期は6月になっても固まり切っていない。
結果として、相場は最高値圏周辺で推移してはいるが、足踏み状態が3ヵ月ほど続いており、マイニングの収益性は改善しないままだ。マイナーの売り圧力に関しては、常に警戒しなければならないわけでもないが、本稿で指摘の通り収益性が悪化しマイナーが厳しい状況にいるとすれば、リスクイベントに伴う相場の急落時には、マイナーの売り圧力にも注意しておきたい。現状打破には①相場の復調か、②ディフィカルティの更なる低下が必要と指摘されるが、現状ではどちらにも時間が掛かりそうだ。