ETF承認期待に支えられるBTC 手強いレジスタンスを突破できるか?:7月のBTC相場

TradFi連続参入で2ヶ月越しの上昇
6月のビットコイン(BTC)対ドルは、およそ2ヶ月に及ぶ下降チャネル(第1図紫線)からブレイクアウトに成功し、4月14日に付けた年初来高値(30,974ドル)を高値ベースで更新した。
5月に相場の上値を圧迫した米国の債務上限問題が解決し、28,000ドルを回復したBTC相場だったが、月末にかけては米連邦準備制度理事会(FRB)による政策引き締めへの懸念が燻り買いが続かず、6月のBTC相場は27,000ドル周辺にて上げ渋る展開で始まった。6月5日には、米証券取引委員会(SEC)がバイナンスと同社CEOのCZを提訴し、翌6日には米コインベースをも提訴したことで暗号資産(仮想通貨)業界には衝撃が走ったが、アルトコイン相場が強く押すなか、SECから「コモディティ(商品)」とお墨付きを得ているBTCは2月高値周辺で下げ止まり、下に往って来いを演じた。
しかし、SECによる業界の規制取り締まり強化で相場の上値は圧迫されると、米FinTech企業ロビンフッドが、SECが証券と指摘したカルダノ(ADA)、ソラナ(SOL)、ポリゴン(MATIC)の取り扱い廃止を発表し、BTC相場は上記3銘柄の下落に連れて26,000ドルを割り込んだ。そこに追い討ちをかけるように米連邦公開市場委員会(FOMC)が年末の政策金利見通し引き上げを発表し、相場は2月高値を明確に割り込み、25,000ドル下抜けを試した。
一方、16日には米大手資産運用のブラックロックが現物型ビットコイン上場投資信託(ETF)の上場をナスダック経由でSECに申請し、BTCは反発。さらに6月第4週からは、フィデリティやチャールズ・シュワブが後援につく仮想通貨取引所EDX Marketsが取引サービスを開始した他、ウィズダムツリー、インベスコ、バンエック、バルキリー、アーク・インベストメンツ、フィデリティが次々に現物型ビットコインETFの上場申請をシカゴ・オプション取引所(Cboe)のBZX経由で提出。そんななか、パウエルFRB議長が21日行われた議会証言で、仮想通貨のアセットクラスとしての持続力を認める発言をしたこともあり、BTC相場は下降チャネル上限ブレイクから一気に31,400ドル台まで急伸した。
ただ、これによりBTCは4月の年初来高値を更新すると相場は上値を重くし、概ね30,000ドル〜31,000ドルレンジ内での推移に転じている。6月30日には、5月の米個人消費支出(PCE)価格指数の下振れを受けて上値を試すも、6月に提出されたビットコインETFの上場申請に関して、取引所価格を参照する仮想通貨取引所の具体的な社名と、その取引所との監視共有協定(Surveillance Sharing Agreement、SSA)の詳細が「不十分」とSECが指摘したとWSJが報じ、相場は一時急落を演じ30,000ドルを下回る場面もあった。しかし、これにより現物型ビットコインETFの上場が否認された訳ではなく、相場は過剰反応した分をすかさず取り戻し始めると、各社がコインベースを価格参照の取引所としてSSAを結ぶことを加筆してETFの上場を再申請した。

ETF承認期待台頭も手強いレジスタンスに直面
5月にBTC相場のサポートとなっていた26,000ドルの維持失敗すれば、5月末時点で200日移動平均線が走っていた23,000ドル周辺まで安値を広げる可能性を指摘したが、ブラックロックを筆頭に伝統的金融機関(TradFi)が仮想通貨事業参入を表明したことでムードが一変し、相場は下降チャネルからブレイクアウトに成功した。ただ、先月は「(6)月内の31,000ドル台乗せには材料不足か」とも指摘していたが、TradFiの連続参入を持ってして同水準の終値での回復にはギリギリ成功しているものの、31,400ドル周辺に極めて強いレジスタンスがある印象だ。また、7月3日の31,000ドル回復には出来高の増加も伴っていない他、ダウ理論の観点からブレイクアウトに成功しているかと言われれば(出来高の増加を伴って終値での直近高値更新)、依然としてレンジ相場と判断できる。
現物型ビットコインETFの上場、即ち現物BTCを実際に保有する信託の設立が承認されれば、BTC相場がレジスタンスを上抜けする切り札的な材料となり得るが、どのタイミングでSECが決断を下すかは分からない。また、これまでSECがビットコイン先物ETFを承認してきた背景としては、米老舗デリバティブ取引所であるシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)の市場監視体制が確立されていることが挙げられるが、この度申請された現物型ETFでは、CboeとナスダックがコインベースとSSAを結ぶこととなっている。
6月5日にSECがコインベースを提訴した際、訴状には同社が「不正と相場操縦を防ぐルールブック、適切な情報開示、利益相反に対する予防策や、SECによる定期的な査察といった重要なプロテクションを投資家から奪った」と記されており、SECがコインベースの市場監視能力を信用しているとは言い難い。SSAによりCboeとナスダックがいくらコインベースの市場データにアクセスできるようなったところで、末端の情報源を信用してなければSECの態度が変わるかは未知数だ。こうした間に審査の進捗に関してアップデートが長引けば、ニュースフローが途切れて材料が賞味期限切れになるのも時間の問題だろう。市場では専ら現物型ビットコインETF上場のスムーズな承認に期待感が募っているが、現時点では承認までの道のりは長いと考えている。
肝心な「投資需要」は?
仮に現物型ビットコインETFの上場が一つでも承認されれば、BTC相場にとっては突発的な支援材料と見ているが、その後の市況を左右するのはあくまでBTCへの「投資需要」と言えよう。予てから指摘の通り、BTCは金(ゴールド)との相関、及び米国債利回りとの逆相関が確認され、根本的な相場の流れは米国の政策金利動向に左右されやすいと指摘される。
こうしたなか、6月のFOMCは利上げを見送った一方で、年内残り2回の利上げを行う可能性を示した。ただ、FF金利先物市場はこうしたFOMCの見通しを信じきっておらず、7月の利上げ後は年末まで金利据え置きを織り込んでいる。勿論、FOMCは利上げをせずに市場にタカ派的なメッセージを送るという意味で残り2回の利上げの可能性を示したとも言えるが、6月に発表された経済指標は製造業の減速が示された一方、消費や住宅指標の底堅さが示されまちまちな結果となった。肝心なインフレ指標も、消費者物価指数(CPI)と個人消費支出(PCE)価格指数が前年から減速した一方、食品とエネルギーを除いた双方のコア指数は高止まった状態が続いており、物価安定というFOMCの目標にはほど遠い(第2図)。

経済の綻びが一部では確認されるものの、どのタイミングで利上げを止めるかは依然としてこの先の指標次第と不透明感が強く、マクロ的には持続的なBTCへの資金フローが生まれにくい状況と言えよう。ただ、幸いなことに、インフレのコア指数は悪化していない他、FF金利先物市場も7月の利上げを80%以上の確率で織り込んでおり、指標やFRB関係者からのタカ派的なサプライズにある程度の耐性もあるか。
保ち合い上放れに苦戦か
市場では楽観的な相場見通しが散見されるが、7月のBTC相場はどちらかと言えば高値圏で停滞する展開をメインシナリオとして想定している。
日々のレポートでも指摘の通り、足元のBTC相場は保ち合い上抜けに成功すれば、パターンフォーメーションの観点から35,000ドル周辺が上値目途として視野に入るが、目先ではビットコインETF関連のニュースフローによる後押しがブレイクアウトの鍵になると見ており、SECによるETFの上場審査に進展がなければ足元の水準からの上抜けに苦戦すると指摘される。また、仮にブレイアウトに成功した場合でも、米金融政策動向の不透明感やテクニカル的な過熱感、さらにはマイナーの利食いによって上昇一服後には値幅調整に転じる公算が高いだろう。
