揉み合いから急落したBTC 関税の先に何がある?:4月のBTC相場

3月は振れ幅伴いつつも横ばい
3月のビットコイン(BTC)ドルは8万4391ドルから取引が始まった。2日にトランプ米大統領が、米政府による戦略的暗号資産(仮想通貨)備蓄を支持する発言をしたことで、相場は週末にも関わらず上伸し、9万5000ドルを一時回復した。一方、トランプ氏の戦略的仮想通貨備蓄構想に一部のアルトコインが含まれたことで実現性に疑義が生じた他、延期されていたカナダとメキシコに対するトランプ関税発動を控え、翌3日には上げ幅を綺麗に掻き消した。
その後、トランプ政権がカナダ、メキシコに対する関税を巡って、北米製の一部自動車については適用を1カ月延期すると発表したことで、9万ドルを回復したが、トランプ大統領が戦略的ビットコイン備蓄を創設する大統領令に署名すると、事実売り気味に相場は反落。加えて、ホワイトハウス主催の仮想通貨サミットにて目星い材料がなかったことで、失望感が広がると、9日には8万ドル周辺まで安値を広げた。また、週明け10日トランプ大統領がフォックス・ニュースとのインタビューで、米国経済の景気後退入りの可能性を否定しなかったことでリスクオフムードが加速し、BTCは一時8万ドルを割り込んだ。
一方、これにより売り過熱感がでたことで相場は11日に反発。カナダ・オンタリオ州が米国向け電力のサーチャージを撤廃したことで、米国もカナダ製鉄鋼・アルミニウム製品への関税引き上げを取り消したことも安心材料となり、相場は下げ幅を縮小した。
19日には米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催され、量的引き締め(QT)の減速が決定された。また、四半期次の経済見通し(Summary of Economic Projections、SEP)では、年内2回の利下げ見通しが維持され、BTC89万5000ドルの上抜けに成功。翌日には上げ幅を縮小するも、23日にホワイトハウス高官が、米政府が追加のBTC購入を検討する可能性があると発言すると反発し、24日には9万ドルに迫った。
しかし、28日に発表された米ミシガン大学の消費者調査で、5年先のインフレ期待が約30年ぶりの高水準となり、消費者信頼感指数が2年3カ月ぶりの低水準となったことで、米経済のスタグフレーション懸念が台頭し、リスクオフムードが加速する中、BTCは下げ足を速めた。
結局、月初の乱高下以降、相場ははっきりと方向感を示せず、3月の終値は8万2560ドルとなった。

月初から幸先悪いスタート
3月は小幅な下落にとどまったBTCドルだが、4月は幸先悪いスタートを切っている。2日のトランプ米政権による相互関税が想定以上に厳しい措置となったことで世界的にリスク回避の動きが加速し、一時は9万ドルを試した相場だったが、6日には8万ドルを下抜けた。
相互関税の内容としては、貿易相手国に一律10%の関税を課すことに加え、各国との貿易収支によって更に上乗せで10%〜49%と高い関税を賦課することとなっており、一律関税は7日、上乗せ関税は9日に発動となっている。未曾有の関税措置発表により、報復関税による貿易戦争や世界的な景気後退リスクが世界を席巻し、4月は広範な金融市場でリスク資産から資金を引き上げる動きが加速している。
一方、9日の上乗せ関税発動を前に日本やEUを含む50カ国以上が既に米国と交渉を始めている。一時は交渉の余地はないともされていたが、やはり異常な関税を叩き付けて相手国を交渉のテーブルに誘い出すトランプ氏の常套手段がまたも炸裂した格好だ。7日時点で真っ向から報復関税を発表しているのは中国のみとなっており、市場にとって最悪のタイミングは過ぎ去った可能性が指摘される。
他方、関税による米国の景気後退懸念から、市場ではFRBによる景気刺激策実施観測が高まっている。3月のFOMCでは、年内2回の利下げ予想が示されたが、4月1日の時点でFF金利先物市場は3回の利下げを織り込み、足元では4回の利下げを織り込んでいる。
第一次トランプ政権でも関税発動後は一時的な物価上昇率の加速が確認されたものの、その後は国内の経済活動が鈍化し、インフレは鎮静化、結果的にFRBは25bpの利下げを3回実施していた。関税は貿易収支の健全化が主な狙いと言えるが、トランプ氏本人もパウエル議長に利下げを繰り返し要請していることから、FRBに利下げを急がせる思惑もありそうだ。

しかし、関税の影響は一時的だったとしても、4月の相互関税の影響がでてくるのは今月以降に発表される経済指標となることから、少なくとも5月FOMCでの利下げは有り得ないだろう。パウエル議長本人も関税による物価への影響は一時的と発言しているが、相互関税の影響そのものは想定異常かもしれないと懸念を示しており、FRBによる利下げが再開されるまでもう少し時間が掛かるか。
下げ余地残すも底入れか?
月初の相場下落によりBTCはオンチェーン上で出来高の極端に薄い「真空地帯」に突入。真空地帯では相場が一方向に走りやすく、このままだと7万ドル周辺までの急落も視野に入る(第3図)。尤も、上述の通り、トランプ関税を巡って追加で想定外のリスク材料が出てくる可能性は低いと言え、BTCは一旦売をこなしたこなしたとみている。
また、オンチェーンではBTCの保有期間が半年以下の短期筋(STH)による損切りを急ぐ動きが確認される。STHの売却価格を取得価格で除算したSOPR(Spent Output Profit Ratio)は4月7日の相場急落でニュートラルの1を割り込み、2月末から3月上旬にかけて起きたパニック売の際と同水準まで落ちてきた(第4図)。これは短期筋の大多数が取得時より低い価格でBTCを売却していることを示す。
通常、STH-SOPRがこうして大きく1を下回ると、売り出尽くしで相場は下げ止まる傾向にあり、オンチェーン的にも最悪のタイミングは過ぎ去った可能性が指摘される。


底入れも不安定な動き続くか
以上の理由から、BTCドルは一旦底入れを想定するが、4月中に堅調な推移を取り戻すのはまだ先の話と想定している。トランプ政権による「相互関税」という懸念材料を通過したものの、一時的な物価上昇率の加速は依然として相場の重石となる可能性がある。それに伴い、FRBは景気の刺激とインフレ鎮静化のバランスを取る必要があると言え、少なくとも4月〜5月にかけては静観を保つだろうとみている。要は、BTC相場は「FRBの利下げ待ち」という状況が中期的に続くということだ。
よって、4月のBTC相場ははっきりとした方向感に欠ける展開が見込まれる。関税を巡って米国と各貿易相手国が譲歩案で合意に漕ぎつければ、BTCは戻りを試す展開も視野に入るが、スタグフレーション懸念も払拭された訳ではなく、関税の影響で米国のインフレ指標の伸びが加速すれば不安定な値動きとなるだろう。
