BTCは安定からのパニック売り 危うい状況を抜け出せるか?:3月のBTC相場

なんとか守った8万ドル
2月のビットコイン(BTC)ドルは10万2344ドルから取引が始まった。トランプ米大統領による中国、カナダ(加)、メキシコ(墨)に対する関税発動への懸念から、金融市場では1月末からリスクオフムードが広がり、BTCも強く売られた。一方、2月3日の米国時間にカナダ、メキシコの大統領がトランプ大統領と電話会談を行い、米国との国境警備を強化することを条件に関税適用を1ヵ月延期することで合意し、BTCは10万2000ドル台まで急反発を演じた。
しかし、中国の習近平国家主席はトランプ大統領との交渉を急がない姿勢を示したことで、貿易戦争懸念が相場の重石となり買いは続かなかった。
その後も米雇用統計やパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長の議会証言など、材料は豊富だったが、内容はどれもまちまちな結果となり、BTCドルは9万ドル台後半での揉み合いが2週間ほど続いた。
19日朝方には、1月米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨が公表され、米連邦政府の財政を巡る懸念から量的引き締めを停止あるいは減速することが適切かもしれないと一部の会合参加者が指摘していたことを好感し、BTCは米債利回りの低下を味方に10万ドルを試した。しかし、21日に発表されたS&PグローバルのPMIやミシガン大学の消費者信頼感指数といった一連の経済指標が下振れ、景気減速懸念から米株式市場が急落。加えて、海外交換業のbybitで約2240億円の不正流出が発生し、BTCは反落した。
また、週明け24日にはエヌビディアの決算を控え警戒ムードが広がり、9万ドル近辺まで下落。その後もバイナンスからの不正流出や、トランプ米政権が近日中にEUからの輸入品に関税を賦課すると発表したことが相場の重石となり、28日の東京時間には一時8万ドルを下回った。
一方、節目8万ドルを割るとやや押し目買いが入り反発。更に、米国時間に発表された1月の米個人消費支出(PCE)価格指数が市場予想と合致した他、アトランタ連銀のGDP成長率見通しが-1.5%と大幅に下落したことで、FRBによる夏までの利下げ観測が台頭し、相場はこの日の下げ幅をほぼ奪回した。ただ、2月のBTC月足終値は8万4391ドルと結果的に大幅に水準を下げた。
3月2日にはトランプ大統領が戦略的仮想通貨備蓄構想を支持する発言をしたことで、一時9万ドルを回復したが、備蓄構想にXRP、ADA、SOLを含んだことで実現性に疑念が生まれた他、トランプ政権がカナダ、メキシコ、中国からの輸入品に再度関税を欠ける意向を示したことで上げ幅を完全に吐き出し、3月の不安定な値動きで取り引きされている。

不安定な市況続くか?
2月は終盤まで9万ドル台後半での揉み合いが続き、先月の想定通りある意味安定した値動きを演じていたが、終盤にかけて一気に下げ足を速めた。背景には①複数の海外仮想通貨交換業者からの資金の不正流出、②米経済指標の下振れに伴う景気減速懸念、③トランプ関税による世界経済への影響の3点が挙げられる。
①に関しては、ハッキングに伴う資金の不正流出は一時的な売り圧力にとどまることが殆どと言え、材料的には既に消化されているとみている。②に関しても、レポートでも指摘の通り、FRBのタカ派的な姿勢が軟化し得る材料と言え、一概に悪材料という訳ではないだろう。実際、第一・四半期のGDP成長率見通しが発表された後、米金利は低下し、FF金利先物市場では6月にFRBが追加利下げに踏み切る可能性が織り込まれた。
一方、③のトランプ関税については、金融市場全体のリスク選好度を萎縮させる材料と言える。2月にカナダとメキシコに対する関税は国境警備強化という条件付きで延期されたが、3月4日から改めて25%の関税を賦課すると発表された。トランプ大統領にとって関税は相手国から有利なディール(取り引き)を引き出す交渉手段と指摘してきたが、同氏はカナダとメキシコが「関税を回避する余地はない」とも発言しており、報復関税の懸念も燻る。
更に、トランプ米政権は2月の対中10%関税に追加で20%の関税を課すと発表しており、中国は早くも米国からの農作物に10%〜15%の報復関税を発表。その他にも米国は相互関税を4月2日から開始すると発表しており、警戒ムードはまだ続きそうだ。
3月は注目材料も
他方、3月はビットコインにとって他にも注目するべき材料がある。
一つ目は米国で現在24の州で提出されている戦略的ビットコイン備蓄法案(SBR)だ。連邦レベルでは依然として「検討」にとどまっているが、24州の内19州で法案審議のプロセスが始まっており、オクラホマ、テキサスでは下院審議中、ユタ、アリゾナでは州下院を通過している。
州レベルでのSBRが実現すれば、連邦レベル、即ちトランプ政権によるSBR創設への布石として意識されると指摘され、ビットコインにとっては相応の好材料になる可能性がある。
また、昨年12月21日に可決した米政府のつなぎ予算は3月の14日に期限を迎える。今年の1月2日に米政府は債務上限適用停止期限を迎え、同17日に債務は上限に抵触した。現在は財務省による特別措置によって予算を賄っている状態だが、この特別措置がいつ焼き切れるかは誰も正確に把握できていない。つなぎ予算が切れる前には再び債務上限問題が浮上する訳だが、債務の上限引き上げや適用停止はコロナ禍で膨れ上がった債務が更に拡大することを意味する。
米国債は2023年に既にフィッチによる格下げ、2024年にムーディーズによる格下げ警告がでており、背景はどちらも債務の拡大による財政の悪化だ。
また、債務上限問題で与野党が合意に至らず、デフォルトや政府のシャットダウンともなれば、国の信用を毀損する重大な問題となる。
いずれのシナリオにしてもカウンターパーティーリスクのない無国籍アセットが逃避の受け皿となる可能性があり、ゴールドやビットコインにとっては追い風となると指摘される。こうしたタイミングで州レベルでのSBRが実現すれば、ビットコインは一層注目を集めるだろう。
パニック売りから反転も視野に
3月は既にトランプ関税を巡って不安定な市況となっており、FRBによる追加利下げの手掛かりや州レベルのSBR創設の進捗など、何かしら材料がない限りBTCはなかなか軟調地合いから抜け出せないか。
一方、2月末の相場下落に際して、保有期間が155日未満(Short Term Holder、STH)で含み損のBTCが大量に取引所に送金されていた(第2図)。また、STHのオンチェーン上の売却価格を購入価格で割ったSTH SOPR(Spent Output Profit Ratio)は先月25日に中立の1を大きく割り込んでおり、短期筋が損切りを急いでパニック売りが発生していた可能性が指摘される(第3図)。STH SOPRが急低下すると、売り圧力の一時的な解消でBTCは短期的に相場は底打ちとなる傾向がある。


相場が9万ドルから8万ドルを割るタイミングでこうしたパニック売りが起きていたと仮定すれば、短期的な相場の下値は堅いと指摘され、2月安値の7万8000ドル周辺は目先もサポートとして意識されるか。
マクロ環境的に目先も軟調地合いが続く可能性があるが、月中盤から州立SBR、米国の債務上限問題、FOMCといった材料で相場が復調する可能性もあるとみており、3月のBTCは2月の下げ幅を縮小する展開をメインシナリオとして想定している。
