BTCは8万ドルまで急伸 9月はイールドカーブの変化に注意:9月のBTC相場
相場急伸も上値伸ばし切れず
8月のビットコイン(BTC)ドルは6万2830ドルから取引が始まった。7月末にかけて米・イランによる攻撃の応酬が停止し、8月初旬にはトランプ米大統領がイランへの追加攻撃延期を発表したほか、仲介国のカタールが双方の協議が進展していると発表したことで、原油高に一時的に歯止めが掛かり、BTCはジリジリと戻りを試す展開となった。
一方、ホルムズ海峡の主権を巡る対立から米・イラン関係は再度悪化。軍事的衝突も再開し原油価格が上昇するなか、7月の米消費者物価指数(CPI)の下振れも相場反転の切っ掛けとはならず、BTCは6万5000ドル周辺からジリ安に推移し、8月中旬には月初の上げ幅を解消した。
ところが、中旬以降の市況は米国債利回りの上昇を切っ掛けに一変した。17日には、世界的なインフレや財政懸念を背景に米30年債利回りが19年ぶり高水準を記録すると、米国の財政持続性に対する警戒感が高まり、無国籍資産であるBTCに買いが入り、6万5000ドル近辺まで反発。19日には、ベッセント米財務長官が、長期国債の一回あたりの買い戻し規模を従来の20億ドルから最低でも40億ドルに引き上げると発表したことで、市場の財政懸念への意識が高まり、BTCは一気に7万ドルまで急伸した。
翌20日には、ベッセント氏が長期国債買い戻し規模について40億ドル以上となる可能性もあると発言し、改めて長期金利の押し下げを意識した姿勢を示したものの、この発言が余計に財政懸念を強める格好となり、相場は20日から21日にかけて7万ドル、7万5000ドルと節目の水準を破竹の勢いで突破した。また、国債買い戻しの原資を財務省一般勘定(TGA)から拠出する可能性があるとCNBCが報じると、流動性改善期待から相場は8万ドルを回復した。
しかし、28日のジャクソンホール会議でのウォーシュFRBの講演を控え、24日以降のBTCは8万ドル周辺で上げ渋りに転じた。
28日、FRB議長就任後初めてジャクソンホール会議での講演に臨んだウォーシュ議長は、現状の金融環境は十分に景気抑制的ではないと指摘し、従来示していた「金利上昇が一定の景気引き締め効果を発揮している」との認識を改めたほか、基調的なインフレが目標の2%に向かって減速しなければ追加利上げの用意があると発言し、明確にタカ派的なスタンスを示した。議長の講演を受けて、米短期金利は急上昇し、FF金利先物市場では9月米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げを急速に織り込み、BTCは7万7000ドル周辺まで反落。その後は方向感に欠ける展開が続き、終値は7万8000ドルとなった。

米財政懸念とFOMC:金利上昇の「中身」に注意
9月のBTC相場を展望する上では、米国債利回りの動向が最大の焦点となろう。8月には米国の財政状況に対する懸念が突如として市場のテーマに浮上し、長期金利が上昇するなかでもBTCは大幅に上昇した。米国の現物ビットコインETFには17日から9営業日連続で資金の純流入が確認されており、ソブリンリスクに対するBTCの強さを改めて印象付ける格好となった。
一方、月末のジャクソンホール会議では、ウォーシュFRB議長が従来の「インフレリスクはピークを迎えた」との認識から一転してタカ派的な姿勢を示した。現状の金融環境が十分に景気抑制的ではないと指摘したほか、基調的なインフレが目標の2%に向かって減速しなければ追加利上げの用意があると発言しており、市場では9月FOMCでの利上げを意識せざるを得ない状況となっている。
米財政懸念とFRBの利上げ観測はいずれも米国債利回りを押し上げる要因となるが、BTC相場への影響を考える上では、金利が上昇しているという事実だけではなく、「何を切っ掛けに、イールドカーブのどの年限が動いているか」に注意する必要がある。
一般的に、2年債など短期国債の利回りはFRBの金融政策見通しを反映しやすい。従って、利上げ観測を背景とした短期金利の上昇は、BTCを含むリスク資産にとって逆風となりやすい。一方、10年債や30年債といった長期・超長期国債の利回り上昇については、インフレだけでなく財政赤字の拡大や国債需給への懸念を反映する場合がある。8月のように米国の財政持続性に対する警戒感が長期金利を押し上げる局面では、BTCがソブリンリスクに対する代替資産として選好され、かえって相場の支援材料となる可能性がある。
尤も、足元では両者を明確に切り分けることも難しい。ウォーシュ議長のタカ派姿勢の根底には、米・イラン情勢の緊迫化に伴う原油高と、それによるインフレ再燃への警戒感がある。原油高によるインフレ懸念は金融政策見通しを通じて短期金利を押し上げる一方、中長期的な期待インフレの上昇を通じて長期金利にも上昇圧力を加え得る。このため、本来であれば幅広い年限で金利が上昇しやすく、利上げ観測による下押し圧力と財政懸念を背景としたBTC需要が綱引きする構図となろう。
ただ、9月からはこの構図に変化が生じる可能性がある。米財務省は長期国債の一回あたりの買い戻し規模を従来の最低2倍に引き上げる方針を示しており、長期金利の上昇抑制を図る構えだ。仮に財務省の思惑通り長期金利が低下する一方、FRBの利上げ観測によって短期金利が高止まり、あるいは一段と上昇すれば、イールドカーブにはフラット化圧力が掛かることになる。この場合、8月にBTCを押し上げた財政懸念という追い風が弱まる一方で、金融引き締めへの警戒感が前面に出ることとなり、BTC相場には重石となる可能性がある。
加えて、9月FOMCまでには8月分の卸売物価指数(PPI)と消費者物価指数(CPI)の発表を控えている。ただでさえFRBの政策見通しを巡る不透明感が強いなか、月前半はこれらの指標を見極めたいとの思惑から積極的な上値追いには慎重になりやすいと言えよう。特に、基調的なインフレ動向を映すコアPPIやコアCPIが再び伸びを加速させれば、9月利上げの織り込みが一段と進み、短期金利の上昇を通じてBTCへの下押し圧力が強まる可能性には留意したい。
9月の相場見通し
テクニカル面では、8月の上昇によってBTCを取り巻く環境は大きく改善したと言えよう。BTCは過去の弱気相場で大底圏として意識されてきた200週移動平均線から明確に上放れたほか、強弱トレンドの分岐点として意識される短期投資家の平均取得価格も上回った(第2図)。8月には現物ビットコインETFへの資金流入も再開しており、需給面でも6月から7月にかけての弱気相場から脱しつつある兆候が確認される。

尤も、本格的な上昇トレンドへの転換を判断するには時期尚早だろう。過去のBTCの強気相場では主要国による金融緩和が流動性の拡大を通じて相場を支えてきたが、今回はFRBが追加利上げの可能性を残しており、金融環境がBTCの上昇を全面的に支援する状況には至っていない。また、8月には6万ドル台前半から8万ドルまで短期間で大幅に上昇したことから、短期的な過熱感も否定できず、目先の上値余地は相応に限られているとみている。
従って、9月相場は改善したテクニカルと需給が下値を支える一方、FOMCを巡る金融政策の不透明感が上値を抑える展開を基本シナリオとしたい。特に月前半はCPIやPPIを睨みながら神経質な値動きとなりやすく、8月のような一本調子の上昇を期待することは難しいだろう。
なかでも、インフレのコア指標が再び伸びを加速させる展開には要注意である。コアPPIやコアCPIの再加速が確認されれば、9月FOMCでの利上げ観測が一段と強まり、短期金利の上昇を通じてBTC相場への下押し圧力が強まる可能性がある。さらに、米財務省による長期国債の買い戻しによって長期金利が低下する一方、利上げ観測を背景に短期金利が上昇すれば、イールドカーブはツイストフラットニングの様相を強めることとなる。この場合、単なる金利上昇以上に金融環境の引き締まりが意識されやすく、8月後半の上昇に対する調整圧力が強まる公算が大きい。
一方、FOMC前にコアインフレの伸び鈍化が確認されれば、利上げ観測が後退し、短期金利の上昇にも歯止めが掛かる可能性がある。その場合は、改善した需給環境が下支えとなり、BTCは高値圏で底堅く推移する展開が想定される。ただし、インフレ指標の結果が確認されるまでは上値追いに慎重な姿勢が続きやすく、9月は警戒感を維持しながら、金利の年限別の動きを見極める必要があるだろう。













