BTCは上値重くも無難な動き ETF申請が仇となるか?:8月のBTC相場
ブレイクアウト失敗
7月のビットコイン(BTC)対ドルは、一時は上値を試し年初来高値を更新するも、ブレイクアウトに失敗し、心理的節目の30,000ドルを割り込んだ。
6月30日に米証券取引委員会(SEC)が、昨今申請された現物型ビットコイン上場投資信託(ETF)の上場申請が「不十分」だと主張したことで、ブラックロックを始めフィデリティ等各社が指摘箇所を修正して上場再申請を提出し、7月のBTCはETFの承認期待感から31,000ドルに乗せる展開で始まった。一方、米国が独立記念日を迎え米市場が休場となったこともあり、商いが振るわず相場は失速すると、6月の米連邦公開市場委員会(FOMC)が想定以上にタカ派的だったことや、ADP雇用レポートの民間部門雇用者数と全米供給管理協会(ISM)のサービス業購買担当者景気指数(PMI)の上振れを受けて、一時は30,000ドルを下回った。
その後、BTCは節目の水準からジリジリと戻りを試し、リップルがSECとの裁判で部分的勝訴を勝ち取り、XRP相場の急騰に連れ高で32,000ドル乗せを試したが、バイナンスが1,000人超規模のレイオフを発表した他、米政府がシルクロードから押収したBTCのアドレスに動きがあったことで、相場は瞬く間に上げ幅を掻き消した。
7月後半からのBTC相場は節目の30,000ドルを挟み込み揉み合いに終始していたが、バイナンスUSがサービス開始当時にウォッシュ・トレードによる出来高の水増しをしていた疑いがあるとWSJが報じ、29,000ドルまで一段安を演じた。その後は7月のFOMCや欧州中央銀行(ECB)政策理事会、日銀の政策決定会合が立て続けに行われたが、相場は29,000ドル台前半で上値が重くも底堅く推移。しかし、DeFiのカーブファイナンスの複数プールからハッキングによる不正流出が発覚したことや、SECがヘックスやパルスチェーンとその創業者リチャード・ハート氏を提訴すると、アルト主導の下げに連れ安となり、BTCは29,000ドルを割り込んでいる。
ビットコインETF審査、始まる
複数のTradFi(伝統的金融機関)による現物型ビットコインETFの上場申請で、6月に実に2カ月ぶりに30,000ドルを回復したBTCだったが、7月19日に5社(ブラックロック、バンエック、ウィズダムツリー、フィデリティ、インベスコ)の申請審査が始まったと報道されても相場の反応は鈍く、やはり相場は高値圏で停滞した。
8月13日には、6月29日に判断が延期された米アーク・インベストとスイスの21シェアーズのETF承認判断の期限を迎えることとなっており、今回もSECが判断を延期すれば、次は11月10日の判断と90日も間が開くこととなる。SECはETFの上場可否判断を審査開始から45日・45日・90日・60日と、最大で240日間引き延ばすことができ、7月19日に審査が始まった5社のETFの最初の判断は9月1日か4日になる見通しだ(7月19日から45日後は9月2日の土曜日となるため、その週末の前後に判断が下される見通し)。
ただ、先月も指摘の通り、この度申請されたETFでは各社がコインベースと市場の監視共有協定を結んでおり、SECによる同社の提訴が審査には不利に作用することが指摘され、承認判断は引き延ばされる公算が高いと見ている。そうなれば、市場の現物型ビットコインETF上場承認期待に水を差す形となり、BTC相場にとっては重石となろう。
続く利上げ局面の「終盤」
6月に利上げを見送ったFOMCは7月、25ベーシスポイント(bp)の利上げに踏み切った。尤も、7月の利上げは1カ月前の時点で市場では80%の確率で織り込まれており、会合直前にはほぼ100%織り込み済みとなっていたことから、BTC相場にとっても特段のサプライズとはならなかった。
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は会合後の記者会見で、「FRBスタッフは景気後退を想定していない」と前向き且つ追加利上げ余地を残す発言をしたが、7月同様に9月の利上げ有無は引き続きデータ次第という姿勢を崩さなかった。そんななか、今月8月はカンザスシティ連銀が主催する毎年恒例の世界経済シンポジウム(ジャクソンホール会議)が24日〜26日の日程で開催される。ジャクソンホール会議では、毎年、主要国中銀総裁の発言に注目が集まるが、FRBが利上が打ち止めのタイミングを模索し始めた現状で、パウエル議長からその手掛かりとなりような政策方針の発表があるかは微妙なところだ。
ジャクソンホール会議までに米国の7月分の雇用統計や消費者物価指数(CPI)に生産者物価指数(PPI)が出揃うこととなっており、賃金や物価の上昇ペースが引き続き鈍化傾向を示せば、パウエル議長のスタンスが中立的だった7月の記者会見からタカ派に傾斜することもないと言える。一方、6月はコアCPIとコア個人消費支出(PCE)価格指数及びトリム平均PCEインフレ(各月で上下に変動率の高い項目を取り除いた、コアPCE価格指数の代替指標。ノイズを取り除き、インフレの中長期的なトレンドをより正確に反映するとされる。)が高止まった状態から低下に転じ(第2図)、インフレ沈静化に向けて進捗が評価される可能性もあるが、水準としてはFRBの目標の2%から依然として遠く、利上げ停止のタイミングについて具体的な手掛かりは得られないと見ている。
要は、こうしたコアインフレ指標の上昇ペース鈍化傾向が継続的に確認されない限り、FRBの動きは「データ次第」という状態が続くと指摘され、ジャクソンホール会議でのパウエル議長の発言からも目新しい材料は期待できないと言え、利上げ局面の終盤は続くだろう。
上値の重さも続くか
8月のBTC相場は、①足元のCRVやHEXを始めとするアルトコイン相場の軟化、②SECによる規制取り締まりの強化、③現物型ビットコインETFの承認判断延期の可能性などが上値圧迫材料となるか。足元の相場は、2021年安値となる28,900ドル割れを試しており、終値での同水準の維持に失敗すれば、一目均衡表の雲下限となる28,120ドルや節目28,000ドルエリアが下値目途として挙げられる。
下値リスクで言えば、相場が6月の上げ幅を解消する可能性も視野に入るが、米経済指標が引き続き製造業の活動縮小やインフレ鈍化を示す公算も高いと指摘され、米債利回りが頭打ちとなれば、BTC相場の下支えになり、下値余地を限定すると想定している。