3月FOMC要点とビットコイン価格への影響
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米時間17日に米連邦公開市場委員会(FOMC、Federal Open Market Committee)が開かれ、日本では18日未明に声明が発表されました。FOMCは米国の金融政策を決める会合で、政策金利の動向などが毎度注目されます。今回の会合後には、毎四半期に発表されるFOMC参加者の経済見通し(Economic Projection)も発表されたことから、市場では重要なイベントとなっていました。
この経済見通しでは、FOMC参加者の向こう数年の政策金利見通し(ドットプロット)に加え、国内総生産(GDP)成長率、インフレ、失業率など、政策に影響を与える指標の見通しが毎回アップデートされ、市場参加者にとっては長期的な政策動向のヒントを得るための大変重要なデータとなります。
2021年に入ってからは、新型コロナのワクチン接種が米国で進み、バイデン政権の掲げる1.9兆ドル規模の経済対策案への期待感もあったことから、今春以降の経済回復が見込まれる中でインフレ高進懸念も醸成され、米国債の売りが加速し、指標10年債の利回り(長期金利)は年明け早々に1%を超え、足元ではコロナ前の水準を上回り1.6%台後半にまで回復しました。昨年末時点では、市場では向こう2、3年は米国の金融政策に変更はないというある程度のコンセンサスがありましたが、この長期金利急上昇を受け、市場の予想よりも早い段階で金融政策の引き締めが起こるという懸念が台頭しました。
こうした懸念を受けて、パウエル米連邦準備理事会(FRB、Federal Reserve Board)議長らは、当局が掲げる物価と雇用の目標に現状は程遠く、現行の政策を「しばらくの間」継続するのが妥当であると、市場に安心感を持たせようと発言してきました。よって、今回の経済見通しでは、この「しばらくの間」がどれくらいの期間になるかの手掛かりが出るかが一つの注目点となりました。
本稿では、17日のFOMCの結果の要点をまとめた上で、今後のビットコインの価格にどういった影響が想定されるか考察していきます。
FOMC3月会合の注目点
金融政策:据え置き、予想中央値にも変化なし
まず、注目の政策金利ですが、こちらは0.00%-0.25%の据え置きが決定されました。一方で、2022年に利上げを予想するFOMC参加者が前回の17人中1人から18人中4人、2023年の利上げ予想は4人から7人と増えていました。しかしながら、今回FOMCに参加した18人の予想政策金利の中央値は、前回から変わることなく、2023年末までは0.00%-0.25%の低金利政策が維持される予想となりました(第1図、ドットは参加者の予想政策金利レンジの中央値)。
また、パウエル議長は会合後の記者会見で、会合参加者の殆どが2023年までの利上げを想定していないと念を押し、毎月1,200億ドルの資産購入についても現状のペースを維持し、「一段と顕著な進展」があるまで継続すると発言。これについての議論も「時期尚早」とし、これまでの姿勢を繰り返しました。
![ドットプロット](/knowledge/_next/image?url=https%3A%2F%2Fimages.microcms-assets.io%2Fassets%2F5c7d01000562418eb10a884ae8573fa3%2F2ecc42a6f58940bd948b5668ddd63106%2Fmar-2021-fomc-review-1.png&w=3840&q=75)
FOMC声明と経済見通し:見通し引き上げ、インフレ加速の予想も
前回のFOMC声明では、経済活動と雇用の回復ペースについて、「直近数ヶ月で緩やかになった」とされていましたが、今回は「最近の経済活動と雇用の指標は上向いた」と明示し、見通しがやや改善しました。一方で、足元のインフレは目標の「2%を引き続き下回っている」とし、経済回復の兆しに対する緩和的な政策継続の正統性のバランスをとった形となりました。
この経済回復の兆しは、経済見通しの中でも反映されており、FOMC参加者の今年のGDP予想中央値は、前回12月時点の4.2%から6.5%と大幅に引き上げられました。また、経済活動の回復に伴う個人消費の改善予想も引き上げられ、重要なインフレ指標の一つであるコア個人消費支出(コアPCE)の予想中央値も、1.8%から2.2%とインフレが今年加速し、目標の2%を上回るとの見方が確認されました(第2図)。
会合後の記者会見でも、パウエル議長は「今年一時的にインフレが2%を超えることが見込まれる」と明示しました。
![経済見通し](/knowledge/_next/image?url=https%3A%2F%2Fimages.microcms-assets.io%2Fassets%2F5c7d01000562418eb10a884ae8573fa3%2Fcb889d9d189b4ae2bc94ff494f01aef3%2Fmar-2021-fomc-review-2.png&w=3840&q=75)
長期金利について:「現状の政策が適切」、追加緩和なし
市場が注目していた長期金利に対するパウエル議長のスタンスですが、今回は特段新たな発言やスタンスの変化はなく、「無秩序な状態」になれば懸念するとこれまでの姿勢を崩しませんでした。
同氏が記者会見後に望んだCNBCのインタビューでも長期金利についての質問があり、他国金融当局者が金利上昇による借入コスト上昇を懸念する中で、FRBはツイストオペなどの対策を考慮しているかという質問に対し、「それ(ツイストオペ)も我々の持つツールの一つではあるが、現状の政策が適切である」とし、あくまで静観スタンスを維持しました。
欧州中央銀行は今月、向こう一四半期で資産購入ペースを加速させ、金利上昇に歯止めを掛ける意向を表明しましたが、米金融当局の腰は比較的重いようです。
ビットコイン価格への影響
ビットコインの対円相場は、17日の東京時間からFOMCの結果を警戒するように上値の重い展開となり、620万円から590万円周辺まで押しましたが、FOMC終了と共に急反発し、この日の下げ幅を一気に奪回しました(第3図)。
![ビットコインチャート](/knowledge/_next/image?url=https%3A%2F%2Fimages.microcms-assets.io%2Fassets%2F5c7d01000562418eb10a884ae8573fa3%2Fa4782513978c4a47a409eeb4476c269e%2Fmar-2021-fomc-review-3.png&w=3840&q=75)
影響が大きかった物としては、ドットプロットの中央値が2023年まで変わらなかったことに加え、今年のインフレ予想が大幅に引き上げられたことで、ビットコインへの緩和マネーとインフレヘッジ・マネーの流入継続期待が維持されたと指摘されます。
前回のドットプロットでは、あと4人の参加者が利上げを予想すれば、2023年の政策金利予想中央値が引き上げられる形だったため、次のドットプロット更新で2023年の利上げ予想が現実となるか警戒されていましたが、今回も予想の中央値に変化がなかったことで安心感につながりました。
また、「デジタルゴールド」と称されるビットコインは、実際の金(ゴールド)と異なり長期金利の上昇が相場の重石とならないため、現状の国債市場の環境下でもインフレヘッジ資産として優位性があります。加えて、今年に入ってからのビットコインの価格は、市場が予想する期待インフレ率であるブレークイーブン・インフレ率(BEI)との相関があり(第4図)、今回のFOMCの経済見通しでインフレ指標であるコアPCEの予想が大きく引き上げられたことも、ビットコインにとって好材料と受け止めて良いでしょう。
ただ、ドットプロットには引き続き要注意です。来年から利上げを予想する参加者が増えてきているのも事実なので、参加者の予想の中央値が引き上がるか否か、これからも市場で注目されるでしょう。
![ビットコインと期待インフレ](/knowledge/_next/image?url=https%3A%2F%2Fimages.microcms-assets.io%2Fassets%2F5c7d01000562418eb10a884ae8573fa3%2Fb353a620da69445ba2e698b38aa17c53%2Fmar-2021-fomc-review-4.png&w=3840&q=75)
参考資料
FOMC声明(2021年1月)
FOMC声明(2021年3月)
FOMC経済見通し(2020年12月)
FOMC経済見通し(2021年3月)