200日線から生き返ったBTC 金融危機懸念のなか安値圏から脱出:4月のBTC相場
200日線からの復活劇
2月下旬のビットコイン(BTC)対ドル相場は、堅調な米経済指標と1月の米個人消費支出(PCE)価格指数の上昇を受け、米連邦準備制度理事会(FRB)が積極的な利上げを再開するとの観測から23,000ドル割れを試す展開となっていた。こうした中、3月に入ると暗号資産(仮想通貨)事業者の銀行として名を馳せたシルバーゲート・キャピタル(SI)が、米証券取引委員会(SEC)への年次報告書(Form 10-k)の提出延期を申請。これにより同社の事業存続が危ぶまれコインベースやパクソスといったパートナー企業が次々と提携関係を解消したことが嫌気され、BTCは3日、22,000ドルまで下落した。
8日にはシルバーゲート・キャピタルが傘下のシルバーゲート銀行の閉鎖と資産の任意精算を発表し、BTCは22,000ドルを割り込むと、シリコン・バレー・バンク(SVB)が資金繰り難のため売却可能な有価証券を全て売却したことを発表し、クライアントのバンクランが勃発し株価が暴落。すると、米連邦預金保険公社(FDIC)が同行の資産を突如差し押さえ、事実上の経営破綻に追い込まれると共に、市場では連鎖的な金融危機への発展が懸念されリスクオフムードが加速。SVBには、米サークル社が発行するUSDCの準備金の一部が保管されていたこともあり、USDCが償還不可の懸念から大きくデペグ(1USDC=1USDのペグを失うこと)した。さらに12日には仮想通貨事業者と繋がりの強いシグネチャー・バンクがNY州金融サービス局(NYDFS)に閉鎖されFDICの管轄下に置かれた。
一連の事件を受け、BTC相場は一時20,000ドルを僅かに割り込んだ一方、200日移動平均線近辺で下げ止まると、米財務省(MoF)がSVBとシグネチャーの預金保護を発表し、USDCへの懸念が後退。加えて、FRBが緊急レンディングファシリティ「Bank Term Funding Program(BTFP)」の設置を発表し、昨年から金融引き締めに傾いていたFRBが方針転換を迫られるとの思惑からBTC相場は反転上昇し、瞬く間に2月下旬からの下げ幅を掻き消した。

3月中旬には、2月の米消費者物価指数(CPI)のコア指数が前月比で加速したことで、BTCは9ヶ月ぶりの高値から一時反落。さらに、スイスの大手銀行クレディ・スイスが筆頭株主のサウジ・ナショナル・バンクからの追加出資を見送られたとの報道で、欧州への金融危機波及が懸念されるなど、リスクオフムードが強まり、一時は25,000ドルを巡り揉み合いを演じた。しかし、FRBのBTFP設置により、量的引き締めを進めていたFRBのバランスシートが僅か1週間で3000億ドル(約39兆円)拡大したことが明らかとなると、BTCは再び上値を追う展開となり27,000ドルを回復した。
金融危機を端に発する景気減速も懸念される中で開かれた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、1月に引き続き25ベーシスポイント(bp)の利上げが決定された他、経済見通し(Summary of Economic Projections)では年末の政策金利の着地予想が12月の5.1%から変化がなく、年内の利下げ開始が否定される内容となった。一方、年内の利上げが5月で終了するとの見通しが濃厚となり、金融政策の転換点が直近に迫っているとの思惑で米国債利回りが低下すると、BTCは底堅く推移。追い討ちをかけるように米証券取引委員会(SEC)がコインベースに訴訟準備を通知するウェルズ・ノーティスを送り、バイナンスが米商品先物取引委員会(CFTC)から提訴されるも、アルトコイン主導の上げがBTC相場の支えとなり、高値圏を維持して3月を終えた。
金利見通しに大幅変化
米銀行の連鎖破綻という想定外のイベントが勃発し、一時は売り込まれたBTCだったが、金融危機懸念の台頭を契機にFF金利先物市場では、それまで12月のFOMC見通し以上に政策金利が引き上がる可能性が織り込まれていたが、FRBが政策のピボットを迫られるとの見方から年内利下げ開始の可能性を急速に織り込み、相場の支えとなった(第2図)。

年始の時点でも、米国のインフレが沈静化するとの見通しから市場は政策金利動向について楽観的な予想をしていたが、現在は当時の状況と大きく異なる。
銀行システムへの不信感から、3月は全米の商業銀行の預金から3891.7億ドル(≒51.7兆円)と、過去50年間で最大の流出が確認された(第3図)。昨年から徐々に減少傾向にあった米国の銀行預金だが、流動性確保が銀行の急務となる中での記録的な預金流出、さらには景気の先行き不透明感は、既に厳しい状況にあった中小銀行を中心にクレジット・クランチを引き起こすリスクが高まると言え、景気の更なる抑制に繋がる可能性が指摘される。
言い換えれば、FRBが現在想定している以上の利上げを行わずとも、信用縮小によって景気の抑制は不可避になっている可能性があり、足元の年内利下げ開始観測も正当化される部分がある。

現状ではFOMCメンバーの誰一人として年内の利下げ開始の可能性について言及した者はいないが、3月のFOMC声明では、それまでの「ongoing increases in the target range will be appropriate(継続的な(政策金利)目標レンジの引き上げが適切)」という文言が、「some additional policy firming may be appropriate(いくらかの追加的な引き締めが適切かもしれない)」と、「some」や「may」を使った曖昧な表現に置き換えられていた。さらに、声明では信用収縮(tighter credit conditions)が事業活動、雇用、物価の重石となる可能性を認識しており、利上げ打ち止めに向けた準備を進めている印象を与えた。
3月FOMCの経済見通しでは、年末時点の政策金利着地見通しが昨年12月から変化がなかったが、3月の物価や雇用指標が発表される4月は、市場の5月での利上げ打ち止め観測や年内利下げ開始観測が支持される公算が高いと言え、BTC相場にとっては追い風となりやすいか。
取り締まり強化で「チョーク・ポイント2.0」との声も
2月に引き続き、SECのみならず、CFTC、NYDFS、FDICが一斉に仮想通貨業界の取り締まり強化に乗り出した。偶然タイミングが重なった可能性や、SECとCFTCの縄張り争いも見え隠れするが、シグネチャー・バンクの閉鎖には業界から疑問の声が挙っている。
シルバーゲート銀行とSVBの破綻を受けて、同じく仮想通貨との繋がりが強いシグネチャー・バンクにも預金引き出しの波が押し寄せNYDFSが閉鎖命令を下した訳だが、同行取締役で元議員のバーニー・フランク氏や、リサーチ会社メッサリのライアン・セルキス氏は、シグネチャー・バンクは閉鎖時点で不払不能ではなく、当局が反仮想通貨的なメッセージを送っていると主張している。
さらに、FDICがシグネチャー・バンク買収条件として、仮想通貨関連企業の預金を除外することを掲げているとロイターが報道。FDICはこれを否定したが、実際にシグネチャー・バンクのアクワイアラーとなったフラッグスター・バンクは、仮想通貨関連企業の預金、約40億ドルを除いて買収に合意した。
こうしたことが重なり、米国の仮想通貨界隈では、米当局による一連の取り締まり強化を「Operation Choke Point 2.0(オペレーション・チョーク・ポイント2.0)」と称するようになった。
そもそものチョーク・ポイントは、2013年にオバマ政権下で司法省が主導した政策で、ペイデイローンや銃販売、アダルト業界といった詐欺やマネロンに利用されるリスクが高い事業者と銀行の繋がりを断たせることを目的とされた。成功を収めた事例もあった一方、政策を執行したFDICの一方的且つ職員の極めて主観的とも取れる手法に対しては、職権濫用を訴える声が次々と挙がり、後に訴訟問題に発展。正当な権力の行使を怠り、合法的な事業者をも害したとして、下院監視・改革委員会によって2014年に廃止を命じられた。
今回もFDICが絡んでいるということもあってチョーク・ポイントが想起された格好だが、勿論、チョーク・ポイント2.0という政策、或いはそれと同等な政策は公式には存在しない。元より、昨年のFTXショックを受けて今年は業界への取り締まりが強化されることはほぼ確実視されていた訳で、仮想通貨業界がターゲットになっているように見えても、秘密裏にチョーク・ポイント2.0のような政策が存在したとしても驚きはない。
問題となるのは、現状、仮想通貨関連企業との関わりのある銀行に対する圧力があるか否かだが、そういった動きは今のところ確認されない。3行の破綻を受けて新たな預金先を探す企業が増えていると指摘されるが、クロス・リバー・バンクやパスワード(旧メタ・バンク)、マーキュリー、さらにはステイト・ストリート、フィデイリティ、ゴールドマン・サックスにJPモルガンといったアセマネを含む大手金融機関も仮想通貨関連企業の預金先として機能している他、英BCBグループは仮想通貨企業向けの自社決済ネットワークを米ドルに対応させる方針を明らかにした。
取引所のステーキングやレンディンサービス、さらにはCDD(カスタマー・デュー・ディリジェンス)といった観点で課題が残るものの、米仮想通貨業界が銀行システムから除外されると言った切羽詰まった状況ではないと言える。
チャートは歴史を繰り返す?
3月のBTC相場は昨年6月から続いた長期安値圏レンジ内で高値揉み合いが続くシナリオを想定していたが、見事にブレイクアウトに成功し、9ヶ月ぶりの高値を記録した。FRBの利上げサイクルの転換点が6月あたりに目処がつくとのシナリオをベースに、年前半のブレイクアウトの可能性は低いと踏んでいたが、これまでの半減期サイクルをなぞるように、2020年5月の半減期から1,000日が経過したあたりで安値圏からの脱出に成功した格好だ(第4図)。

これまでの半減期サイクルでは、安値圏のブレイクアウトから3ヶ月ほどは比較的早いペースで相場が水準を切り上げており、4月は高いボラティリティを伴った相場上昇を想定しておきたい。よって、従前までは年末までの想定レンジの水準の変化を緩やかな傾斜で示していたが、今月からは急なボラティリティの上昇に対応するよう、段階的なレンジに修正する。尚、年末の着地は変わらず20,000ドル〜60,000ドルレンジを想定している。








%2520(1).jpg&w=3840&q=70)

.jpg&w=3840&q=70)
